この悲しみも。……きっといつかは消える
 イアンは交際中の恋人に対しては一途なところがあり、尚且つ人妻は勿論、恋人や婚約者持ちの女性には絶対に手を出さない。
 相手からいくら誘われても、だ。
 そういう潔癖さが、イアンにはあった。


 2杯目をジャーヴィスは勧めたが、イアンは断った。


「アダムス夫人が夫を忘れることはない。
 彼を失った悲しみは、いつかは消えるかもしれないが、想いは残る。
 それはずっと抱えていてもいいんだと……
 ヴィスから言ってあげて欲しい」

「どうして自分で言わない?
 お前は、ミリーはもういいのか?」

「もういいとは、一言も言ってない。
 無関係な俺が、スチュワートのことをあれこれ言って良いとは思えないからだ。
 だから兄貴も彼女の再婚を急ぐなと、言いたいんだよ」


 はっきりした性格のイアンらしくない、奥歯にものが挟まったような物言いに、ジャーヴィスは敢えて言ってみた。


「俺が考えている計画がうまく行けば、ミリーはアダムスから逃れられる。
 そうなると、結構な数の釣書が届くだろうから、急がせるつもりはなくても、3年以内には次の話は……」

「3年か?」

 イアンがその言葉を遮って、確認するように言う。



「俺は貴族以外には、妹を嫁がせる気はないんだ。
 ミリー本人は、自分は死んだことにしてくれ、平民になりたいと言ったが、あの子には無理だ」

「……」


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