インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
1 不遇な過去と希望の未来
梅雨は嫌いだ。
長雨に濡れるし、ジメジメした空気はそれだけで気分が下がる。けれど、今日気分が落ちているのはそのせいだけじゃない。オフィスで仕事中、不意に千秋(ちあき)先輩に聞かれたのだ。

(かえで)さん、あの噂本当なの?」
「ええ、どうやら」

苦笑いをこぼしながらそう答えると、私は再びパソコンに向き直った。

〝あの噂〟というのは、後任の専務を専務候補の中から社長令嬢が選ぶ、というものだ。専務候補の男は3人。社長令嬢――つまり私の妹が婚約者に選んだその人を、専務にすると社長(私の父)が言い出したのだ。

「楓さんだって娘なのにね、なんてったってあの派手な妹だけ――」
「いいんです、私は地味ですし。そもそも、私は娘なんて思われていないでしょうから」

千秋先輩は「でもねぇ、」と言いながら、去っていく。それで、私はため息をこぼした。

確かに、私も社長の娘である。母があの人と再婚した日から、そういうことになった。
けれど、私はあの家では除け者だ。

仕方ない。
私の幸せは、あの日ですべて終わってしまったのだから。
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