インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「彼は32歳という若さだが、うちの法務部長だ」

どこかで聞いたことがある名前だと思ったが、法務の方だと知ってピンときた。事務の仕事として、契約書を作ったことが何度かあったのだ。

父の方を向くと、視線をそらされててしまった。私を見るのも不快らしい。父はそのまま、こちらを見ずに立ち上がる。

「ここに座りなさい。私は席を外す」
「あの、でも……」
「私からあなたに説明したいと、社長に頼んだのです。社長は忙しい方ですから」

諸塚さんが言うと、父は彼の肩を軽くたたいて出て行ってしまった。秘書さんも父についていってしまったから、彼と二人きりになる。

「どうぞ」

促され、座らないわけにはいかない。おずおずと、先ほどまで父が座っていた場所に腰を下ろす。すると、諸塚さんは満足したように笑みを浮かべ、私の目の前に腰かけた。

「さて。先ほども申しましたが、私はあなたと婚約したいと思っています」

その言葉に、どうしていいか分からず、視線をさまよわせた。まだ胸がバクバク鳴っている。
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