インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
いつの間にか握りしめていた拳に、涙がぽたりと垂れた。

そんな私の拳に、大きな手が乗った。肩がピクリと震える。右隣を見れば、いつの間にか、諸塚さんが隣りに座っていた。

「あ、あの……」
「震えているのは、私のことが嫌だから?」
「ち、違います!」

視線をそらし、バクバクと音を立てる心臓を落ち着けようと大きく息を吸う。
けれど、その間にも右手をぎゅっと握られ、胸がきゅっと苦しくなる。途端に目の奥が再び熱くなり、持て余した感情と共に涙が溢れ出した。

「私はあなたの作る丁寧な契約書を見て、あなたの人柄に惚れたんだ」
「……契約書、ですか?」

震える声で訊ねる。彼の方を振り向けば、ぼやけた視界の向こうで、彼は優しく微笑見続けている。

「ああ。契約書は誤字がつきもの。だが、あなたの作るものはいつも迅速でミスがない。とても丁寧に仕事をされているのだと思った。契約書に恋をする、なんて言ったらおかしいかもしれないが」

恋、だなんて。途端に鼓動が跳ね、おかしなリズムを刻み出す。先ほどとは違う、嫌じゃないリズム。けれど、どうも自分がおかしくなってしまったような気がする。

顔をそらし、左手で涙を拭う。そのままその手を胸に当て、ほう、と息をつく。すると彼は、握っていた私の手をそっと離した。あれ、と彼の方を見ると、諸塚さんは身体の向きをこちらに向くよう座り直し、まっすぐに私を見つめた。
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