インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
その寂しさが悲しみに変わったのは、翌月曜日のことだった。

出社した私に向けられる視線が、金曜までのそれと明らかに違う。棘というか、含みのあるものに変わっていたのだ。

「渚紗さんの婚約者を奪ったって、すごい度胸」
「大人しそうな顔して良くやるわよね」
「彼も彼よ、さすが〝冷徹サイボーグ〟」

給湯室の前を通りかかって、そんな声が聞こえた。

「冷徹サイボーグ……?」

口の中で繰り返すと、話していた女性社員たちははっとこちらを見て、そろそろと去っていった。

 ◇

「楓さん、ちょっと」

仕事に取り掛かろうとパソコンを立ち上げた所で、千秋先輩に呼ばれた。使われていない会議室で、先輩と向かい合う。

「あなた、大丈夫なの?」
「何が、でしょうか?」
「婚約よ。お相手、愛のない〝冷徹サイボーグ〟って呼ばれているらしいじゃない」
「え……?」
「専務になるために、渚紗さんじゃなくてあなたに婚約を申し込んだって噂よ」
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