インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「London bridge is falling down,ふんふんふん~♪」

珍しくスーツを着た父と、その隣に寄り添うシンプルなワンピース姿の母。腕を組み歩く二人の後ろを、十二歳の私は鼻歌まじりに歩いていた。

(かえで)、ここはウェストミンスター橋だよ』
『分かってる!』

振り向いた父は、イギリス人には珍しい、真っ黒な髪を紳士的にまとめ上げている。日本人の母は長くて綺麗な髪を、橋の上を吹く風になびかせていた。

私はイギリス人。けれど、二人から遺伝した真っ黒な髪に、母から受け継いだ茶色い瞳。日本のような名前をつけられた私は、まるで日本人のよう。

それが原因で、学校では〝外国人〟と揶揄されることもあったけれど、私は幸せだった。大切にしてくれる、父と母がいたから。

今日は実業家の父の仕事のついでに、ロンドン観光に連れてきてもらった。私の家はニューベリーの近郊、ウェルフォードパーク近くにある。

ロンドンは近いけれど、あまり来たことはなかった。間近で見たロンドンアイ、エリザベスタワー。ロンドン水族館はもっと居たかったほどだ。

『また来れるさ、すぐにね』
『ええ、近いんだから』
『そうだけど』
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