インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「お姉様」

翌日、昨夜の雨が嘘のように良く晴れた朝。ツインタワーレジデンスを出た所で、甘ったるい声に呼び止められた。
背中がぞくりと震える。恐る恐る振り返り、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべる彼女を見て、身体が硬直した。

「渚紗……」

怖いくらいに口角を上げる妹の隣には、見知らぬ男性が立っている。

眉目秀麗な彼の存在は、妹の放つ華やかさと相まって、この高級なツインタワーレジデンス入口をいっそうきらびやかなものにする。青空に映える爽やかな微笑を口元に浮かべながら、彼は茶色い髪をかきあげた。

「はじめまして、お姉さん」

まじまじと見られ、居心地が悪い。

「ね、凱晴さん。お姉様、地味でしょう?」

渚紗がそう言って、二人は顔を見合わせ微笑み合う。腕を組み仲睦まじそうに寄り添う二人は、きっと特別な関係なのだろう。

「お姉様、彼は私の婚約者、獅堂(しどう)凱晴(かいせい)さん。彼も専務候補なのよ」
「あ、うん……、あの、渚紗、ごめん、私……」

あなたより先に、婚約してごめんなさい。

身体を縮こませ、胸の中で何度も謝る。どうか怒らないで。どうか私を傷つけないで。
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