インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
タワーレジデンスは空が近い。今日は晴れていて、けれど星は見られない。不意に向こうの塔の最上階が目に入った。

明かりの灯る部屋。あの場所に、渚紗が一人ぼっちでいるわけがない。あそこで、渚紗はきっと凱晴さんと――。

考えてしまい、頭をぶんぶんと振った。
すると今度は目の奥の方が熱くなる。なんの因果か、涙が溢れてゆく。

これでいいのに。
幸せを願うから、人は不幸になる。幸せは続かない。幸せの次には、必ず不幸がやって来る。

最初から分かっていたことなのに。
束の間の幸せをくれただけでも、義貴さんに感謝すべきなのに。私は――

ただ涙が流れる。目尻からあふれ出したそれは、私の耳元に伝う。愚かでどうしようもない私。愛と幸せに見放された、私。

私が生きているから、全部ダメになる。
やっぱり全部、あの悪魔のせい。そう思ってしまう自分の愚かさが、情けなくて嫌になる。

この気持ちをやりすごそうと、ぎゅっと目をつぶった。
その時。

「楓さん!」

扉を開く音と同時に、私の名を必死に呼ぶ声がした。
< 24 / 70 >

この作品をシェア

pagetop