インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
二人で同時に立ち上がり、キッチンに並んだ。
湯を沸かす時間も、茶葉を蒸らす時間も、なんだかとても面映ゆい。

「幼い頃、イギリスに住んでたんです」

その空気のくすぐったさに耐えられなくなって、私は口を開いた。

「優しい母と、実業家の父と。父が死んでから、日本に来て、それから母も病気で亡くなったんですけど、……あの二人は、私の憧れです」
「憧れ?」
「はい。実業家の父は忙しそうでしたが、母をとても大事にしていて。母も忙しい父を支えていて、いつでも仲良しで、二人の時間を――家族の時間を大切にしてくれる、そんな両親でした」
「そう」

話していると、すぐに時間が経つ。義貴さんはティーポットからカップに紅茶を注いだ。懐かしくて優しい、爽やかでほろ苦いベルガモットの香り。それだけで、ちょっとだけ泣きそうになってしまう。

トレーに乗せたそれを運びながら、先にダイニングに腰かけた私に、義貴さんは口を開いた。

「もう10年以上前だが、私も世界を旅行していたことがある。その時にイギリスにも行ったんだ。もしかしたら、楓さんと出会っていたかもしれないね」

義貴さんは紅茶を口に運ぶ。まさか、あの広いイギリスで出会っていることなんてありえないだろう。そんなことを思いながら、私も温かなそれを頂いた。
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