インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「あの時期は、ウェルフォードパークのスノードロップが見事だったな」

スノードロップ。その花の名前に、はっとした。

「どうした?」

義貴さんが、ピクリと反応した私に気がついたらしい。

「あ、いえ。私、ニューベリーに住んでいたんです。ウェルフォードパーク、懐かしいなあと思いまして」
「そうなんだね」

懐かしいだけでない。春の訪れを告げる、白い鈴のような愛らしいスノードロップの花。〝希望〟という花言葉のついたその花には、特別な想いがある。

ウェルフォードパークのスノードロップの花畑に感化された幼い私は、母に頼んで自宅の庭にスノードロップを植えてもらった。毎日お世話をして、冬の終わりに花が咲いた。父が亡くなったのは、それからすぐのことだった。

後で知ったことだが、スノードロップを家に持ち込むと、不幸が起こるという言い伝えがある。

父が死んだのは、私がスノードロップが欲しいと母に言ったから。私が庭先に、綺麗な花を咲かせてしまったから。

父を死に追いやったのは、私かもしれない。
そういう想いもあるのに、私は自分の罪から目を背け、その後の自分の不遇な運命を全てあの悪魔のせいにしている。

そんな愚かな思考を義貴さんには悟られたくなくて、私は無理やり笑顔を浮かべた。

「父と母との、数少ない思い出の場所なんです」
< 31 / 70 >

この作品をシェア

pagetop