インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「あなたのご両親は、とても素敵な方だったんだね」
「はい……」

温かな紅茶でいろいろな想いを喉の奥に流し込み、義貴さんがかけてくれる言葉の優しさを味わった。

カップの中に目を向ければ、柔らかいのオレンジ色の液体の中に、笑みを浮かべる私が映った。スノードロップのことを、父のことを思い出したばかりなのに。

両親に対する想いを掬い上げてくれた彼に、安心しているのかもしれない。

ふと、「楓さん」と私を呼ぶ彼の声色が硬くなる。
顔を上げた。眼鏡の奥で、彼は何か、思いつめたような顔をしていた。

「私は仕事柄、どうしても出張が多い。それも、すぐに帰って来られるものでもない。交渉が長びけば、それだけ滞在時間が長くなる」
「はい」
「それでも、できるだけあなたとの時間を作るようにする」
「え……」

真剣な瞳に見つめられ、吸い込まれてゆく。

「これからの人生、できるだけ共にいよう。その中で、互いのことをもっと知っていきたいと私は思っているよ」
「…………はい!」

愛じゃないかもしれない。
それでも、私はこの人のことを信頼したい。
大切にしてくれるのが、心の奥から伝わってくるから。

「この後、シンガポールとオーストラリアへの出張が控えているんだ。あなたを一人にしてしまい、本当に申し訳ない。だが――」

彼は紅茶を飲み終えたらしい。カップをソーサーに戻しながら、こちらに優しく微笑んだ。

「――それがひと段落したら、デートをしようか」

その笑顔に、提案に、胸がいっぱいになる。ちょっとだけ、あの日の悪魔に感謝すらしたくなってしまった。
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