インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
渚紗は楓が椎葉家にやってきたその日から、自分が後回しにされてしまうことに嫌気がさしていた。何もかも、自分ファースト。それが令嬢のあるべき姿だと思っていた。

姉は令嬢じゃない。そのくせ、令嬢まがいの優遇を受けるなんて。
婚約だってそう。私の婚約者を勝手に奪って、勝手に婚約して、勝手にあの〝冷徹サイボーグ〟を専務にする、ですって? そんなの、絶対に許さない。

自分が、姉に劣っているわけがない。渚紗はイラついた気持ちを押し込め、凱晴のバスローブを脱がせ、その素肌にすり寄った。

「抱いて? あなたが欲しいの」

上目遣いで見つめるけれど、凱晴はただ口角を上げて笑うだけだ。

「本当に?」

不意に自分の中にあるどす黒い何かを見透かされている気がして、とんでもなく不快な気分になる。けれど、30歳という若さで事業推進部長へ成り上がった、父の信頼も厚い専務候補の男だ。ワルい男のはずがない。
渚紗はこくりと頷く。

「どうやって男を誘惑するのか、知らないのか」

凱晴の言葉に、渚紗は羞恥でいっぱいになった。けれど、知らないのも事実だ。
蠱惑的なランジェリーを着て、ちょっと上目遣いで見つめれば、抱いてもらえると思っていた。けれど、それは間違いだったらしい。
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