インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ～なのに待っていたのは溺愛でした～

「大学時代も、街弁(まちべん)時代も、よく食べていたんだ。今の職(インハウスローヤー)になってからは、あんまり食べなくなったけれど」

言いながら、義貴さんはそれをあッという間に平らげてしまった。私は初めての甘辛いタレの味を舌に刻みつけるように、ゆっくりと箸を進めた。噎せないように、注意しながら。

「街弁って何ですか？」
「地域密着型の弁護士事務所に勤めている弁護士のことだ。個人事務所とか、共同事務所とか。大学卒業後は、友人とそこに勤めていたんだけれど――、まあ、思うところがあって今の職に転職したんだ」
「そうだったんですね」

難しいことはよくわからないが、きっと色々な苦悩が彼にもあったのだろう。

そんなことを思っていると、「あれ、義貴？」と男性の声がした。義貴さんが声の方を振り向き、私もつられて振り向いた。