インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
5 すべてを打ち明けて
 ◇

それから二週間が過ぎた。
義貴さんは相変わらず忙しく過ごしているらしい。会うことは家でも会社でもほとんどないが、ハウスキーパーさんが家事をしてくれるので不便はない。
私は今日も仕事を終えると、ため息をこぼしながら夕飯を温めた。

自分で蒔いた種だ。
あの日、私を引き留めてくれた義貴さんに言い訳をして、突き放したのは私の方だ。なのに、こんな気持ちを抱くなんておこがましい。

彼は、私を助けてくれたヒーローだ。
一度目は、命を。二度目は、あの椎葉家の生活から。
なのに悪魔だと思っていたなんて、そんな彼に合わせる顔もない。

なのに、今はこんなに寂しいと思ってしまう。
忙しい中で時間を作って、私のためにデートをしてくれた。
そこまでしてくれた彼に、私はただ恨むだけで何もできていない――。

今日の夕飯も、ちょっとだけしょっぱい。毎晩毎晩泣いているなんて、なんて愚かなんだろう。

ため息と共に夕飯を咀嚼し飲み込んでいると、がちゃりと玄関の扉が開く音がした。身体がピクリと震える。

「義貴さん? おかえりなさい」

まさか、今、帰ってくるなんて。絞り出した声は震えていた。慌てて目元をごしごしと袖で拭った。けれど振り返れない。きっと今、私はひどい顔をしている。それに、彼に合わせる顔がない。

「楓さん……」

義貴さんはそっと私の名を呟く。
それだけで、胸がつぶされそうなくらい苦しくて、同時に幸せな気持ちがあふれ出す。

けれど。

「高原・フリードマン・楓さん」

彼が呼んだその名に、私は固まってしまった。
『高原・フリードマン』。私の、旧姓だ。
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