インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「今だってそうだ。あなたが社長の娘として生きてきたことで、私はあなたを手に入れることができた。そのことすら運命だと感じてしまっている、傲慢で愚かな人間だよ」

見上げた先で、義貴さんは優しく微笑む。あの日、私が信じたのと、同じ笑顔を浮かべている。

「それでも、格好いいです。私の愚かさとか、傲慢さとは違います」
「人なんて、みな自分勝手な生き物だ。欲のために生きているんだ。あなたの愚かさも、傲慢さも、悪いことじゃない。それに気づいて悔いているあなたを、私はとても崇高な人間だと思う」
「義貴さん……」

止まらない涙は、もうなぜ泣いているのか分からないけれど、激しく私の両目から流れ続けて。そんな私の涙を、優しく彼の親指の腹が撫でてゆく。

優しく触れられると胸が跳ねて、鼓動が先程までとは違う、優しく甘いリズムを刻む。
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