インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
6 勇気を出して
翌朝、彼の腕の中で目が覚めた。彼に大切にしたいと言われ、お互いに抱きしめ合って眠っただけだ。
それでも、こんなに満たされている。こんなに幸せな朝は、子供の頃以来かもしれない。

「おはようございます、義貴さん」
「おはよう」

朝の挨拶は、交わすとついでに口づけがついてくるらしい。こんなに甘い気持ちも、初めてだ。

「出勤準備をしないとな」
「はい」

苦笑いを浮かべる彼に、頬の熱くなる私。極上の幸せ。そんな言葉では、足りないほどに。

 ◇

部屋を出ようと扉を開けると、我が家のインターフォンを鳴らそうとしている人物がいた。こちらに意味深な笑みを投げている彼女は、渚紗だ。

「あらお姉様、おはよう」
「お、おはよう渚紗」

思わず立ちすくんでしまった私。義貴さんが庇うように、一歩前に出てくれた。

「夫婦仲良いのはとても良いこと、ね」

あれ……?
飛んできた私たちを祝福するような言葉に、違和感を覚える。

「お前、何を企んでいる」
「お兄様もお人が悪いわね、そんな言い方」

言いながら、渚紗は右手を口元に当てて上品に微笑んだ。

「私ね、妊娠したのよ」
「え?」
「だから、私の勝ち。お兄様を専務にしてあげられなくて、申し訳ないわ。そもそも、〝愛のない〟お姉様たちは、ろくに夜も過ごせてないでしょうけど」

勝ち誇った笑みは、まるでこちらを見下(くだ)すようだ。
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