インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「何よ、それ。幸せアピール? 本当にムカつく。お姉様はいつもそう……」

渚紗は泣き出してしまう。義貴さんが掴んだ腕の先、拳がプルプルと震えている。

「なんでいつも私から奪うのよ!? 私は、私はあなたのせいで……私は、こんなに……」

義貴さんが渚紗の腕を離すと、ぶらんと力なく下へ垂れ下がった。項垂れた渚紗の頬を、涙がほろほろと流れていく。

「渚紗さん」

低くて鋭い、けれどどこか温かみのある声で、義貴さんが妹の名を呼んだ。渚紗は顔を上げる。
義貴さんはニコリとも笑わずに、渚紗をじっと見た。

「奪われたからといって、奪っていいとは限りません」
「何よ、部外者が――」
「そもそも楓さんは何も奪っていません。あなたは勝手に奪われたと思い込んで、楓さんにそう思い込ませて、傷つけてきたんじゃないですか」

急に声色が冷たくなる。私までもが、その声に思わずブルリと震えた。

「傷付けられたら傷付ける。やられたらやり返す。そんな法律はハンムラビ法典ですよ、いったい何年前の人類なんですかあなたは。ちゃんと、現代に生きてください。今は令和です。ここは日本です」
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