インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「何よ、馬鹿にして!」

「あなたは自分が優位でないと怒り、楓さんを従わせていた。私と婚約したことで、自分が負けたなんて認めたくなかった」
「くっ……」

「あなたは私すら、楓さんから奪おうとした。それがダメだったから選んだ別の婚約者が、暴力的支配をするような人間だった。それでも婚約者を受け入れたのは、楓さんの優位に立ちたかったからでしょう」
「……」

「あなたは、楓さんを傷付けるために自分を傷つけているんですよ。その行為がどれだけ愚かなことか、解っているんですか!」

渚紗は奥歯をぐっと噛んだように歯茎を見せ、それから涙混じりに叫んだ。

「……解ってるわよ! 解ってるけど解りたくないの! 私は幸せなのよ! 私は、お姉様よりも幸せなの!!」

言いながら、渚紗はわんわんと泣き出してしまう。
その場にへたり込み、顔を手で覆い隠してしまった。

誰もいない、早朝のツインタワーレジデンス、最上階のホール内。
渚紗にかける声を、私は見つけられない。
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