インハウスローヤーは私を妻にして専務になりたいだけ ~なのに待っていたのは溺愛でした~
「義貴さん、私、人を叩いてしまいました……」

地上へ降りてゆくエレベーターの中、私の胸は罪悪感でいっぱいになった。先程、彼の頬を叩いた右手が、まだじんじんと痛い。

「気に病むことはありません。あなたは正しいことをした」
「ですが……」
「人を傷つけるということは、自身も傷つけるということです。あなたは、それをちゃんと解っているじゃないですか」

義貴さんは私の右手をぎゅっと、優しく握ってくれた。

「それに、あの場であなたが叩いたことを彼が警察や弁護士に掛け合ったとして。彼が渚紗さんにした仕打ちがボロボロと出てきたら、社会的に制裁を加えられるのは彼の方です」

義貴さんは淡々という。

「そんなに心配そうな顔をしないでください。そもそも、渚紗さんが暴力を受けていることに関しては法務部に匿名のリークがあって知ったんです。つまり、渚紗さん自身も悩んでいたのだと、思います。

それから先程、渚紗さんに巧也の弁護士事務所を紹介しました。この先は、彼女が決めることです。だが今回のことで、もしあなたが窮地に追いやられるようなことがあるなら――」

義貴さんはふわりと微笑んだ。その時、エレベーターが一階で開く。

「――その時は、私が全力であなたを守ります」

朝日に照らされた彼のその笑みに、言葉に、胸が一杯になる。
彼となら大丈夫だと、そう思える。

だから。

「はい」

右手も胸もヒリヒリと痛んだけれど、私も笑顔を浮かべることができた。
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