辞書には載ってない君のこと

page4.)

「最近いろは、あっちゃんと仲良いよね?」

「え?」

お昼休み、永華と階段に座ってお弁当を食べる。教室とはちょっと遠い階段まで来たから、たぶんここを通る人はあんまりいない。

「仲良いよね」

「なんで2回言ったの!?」

「大事なことだから」

……仲良いって言っていいのかはわからないけど、“またね”って言われた通り“また”があった。

中村くんのクラスまで行けば今日は辞書いいの?って聞いてくれて、辞書じゃなくて永華に会いに行ってる日もあるんだけどそんな時でも話しかけてくれるようになった。

「珍しいよね、いろはが男子と仲良いのって」

「うーん…初めてかも、こんなに話すの」

今まで必要最低限の業務的な会話はしたことあると思う、プリント回収する時とかあいさつ…もちゃんとした記憶あまりなかもしれないや。


だから目を見て話すなんてこと、中村くんが初めてなんだ。


「楽しそうでいいんじゃない?」

永華が最後の一口の卵焼きを口に入れた。

「楽しそう?」

私も同じように最後の一口のご飯を食べようとして箸が止まっちゃった。

「うん、あっちゃんと話してる時のいろは楽しそうだよ」


…楽しそう?


そんな楽しそうな顔してるのかな?

別に楽しくないとは思ってないけど。

今まで男の子と話して来てなかったからかな、男の子ってこんな感じなんだって思って。
お兄ちゃんとは全然違って、それも新しい気がしてる。

「じゃ、今日もあっちゃんに辞書借りたら?」

「えっ、なんで!?永華貸してくれないの!?」

お弁当を食べ終えた永華がランチトートを持ってひょいっと立ち上がった。くるっと振り返るようにして人差し指で自分のおでこをトンとした。

「あっちゃんに借りたいって書いてあるよ?」

「!?」

なぜか条件反射でおでこを隠しちゃった。

そんなの書いてあるはずないのに、てゆーか書いてないよ!
そんなこと別に…!

「じゃ、私トイレ寄ってくから先に戻って辞書借りに行っておいでよ」

ひらひらと手を振って行ってしまった。まだ最後の一口が食べられず箸で持ったままだったご飯を口に入れた。

「……。」

書いてないよ、そんなこと。

そんなこと思って…
< 10 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop