辞書には載ってない君のこと
ずっとドキドキしてた。


心臓がキュッてなって、心拍数が上がっていくのがわかった。

階段を一気に下ったせいでもない、全速力で走ったせいでもない…

ううん、そんなこと忘れちゃうくらいに中村くんしか見えなくて。


中村くんのことを追いかけてるみたいだった。


「おばちゃーん、今日もパンあるー?」

「あら、あっちゃんいらっしゃい。あるよ、もちろん」


え…?あっちゃん…!?

購買のおばちゃんにもそう呼ばれてるの!?


気付けば離されていた右の手首がジンジンと熱を帯びてる。

そんなのお構いなしに中村くんは購買のおばちゃんからパンを受け取って、私の方を見て微笑んだ。

そんな笑顔でパン見せられても、そんなおいしいパンなのかなそれ…


でも私は永遠に止まりそうにないドキドキでまだ心臓がうるさいよ。


「いろは、このパン知らないっしょ?」

走って来たから、もっと人気なパンなのかと思いきや購買には誰にもいなかった。
それどころかほとんど売り切れで片付けも始まっていた。


でもそのパン…
ちょっとおかしいよね?


「…うん、知らない」

他のパンは1つずつ丁寧に梱包され値段の書かれたシールが貼ってあるのに、中村くんの持つパンには値札もなければビニール袋だって綴じられてない。ただただよく見かける透明のビニール袋に無造作にパンが入ってるだけだった、それも2つ。

「いろはに1つあげるよ」

「ありがとう」

袋から1つ取り出し、残りの1つを袋ごとくれた。

触った感じふわふわの、何パンだろう?見た目はロールパンみたい。

「めっちゃおいしいよ!」

あんなに来る時は全力だったけど、帰りはゆっくり階段を上った。

階段を上りながら中村くんがパンをかじった。
チラッと覗いてみるとぎっしりクリームが挟まっていた。

これクリームパンなんだ!
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