辞書には載ってない君のこと
「ふふっ」

考えたらおもしろくてつい声が漏れちゃった。

購買のおばちゃんとパン屋の情報交換してるなんて普通ないよ、おばちゃんもだけど中村くんもパン大好きなんだね。

ついくすくすと肩を揺らしていたら、中村くんがじぃっと私の方を見ていた。


あ、今のダメだったのかなっ 

笑っちゃいけなかったのかな…っ


「笑ったとこ、初めて見たかも」


……。

首を傾けて、私と視線を合わせるように。


目を細めて中村くんが微笑んだ。


…あれ?なんか、やばいかもしれない…


またドキドキしてる。

もう走ってないのに、息だって切れてないのに、込み上げて来るこの気持ちは…?


“楽しそうでいいんじゃない?”

ふと永華に言われたことを思い出した。


あ、もしかしてこれが?この気持ちが?

楽しいって思ってるのかな、中村くんと話すの楽しいって…


「辞書貸すから取りに来てよ」

「うんっ、ありがとうっ」

「渾身の芸術作品が生まれたから見てよ」

フンッと鼻を鳴らして、クイッと顔を上げた。芸術家気取りでビシッと決めるように。

「何それ」

だから笑っちゃったの。あまりに自信満々だったから。

「中村くんっておもしろいね!」


楽しいんだ、中村くんと話すの。 

男の子と話したことなかったから、男の子と話すのも案外楽しいんだね。


「いろはには負けるよ」

「何が!?負けるって何が!?」

そうすると中村くんはまた笑って、階段を上がった。置いて行かれないように、隣に並ぶようにして私も階段を上った。

「明日は?明日は現国ある?」

「あー…明日はないかな」

「そっか、じゃあ明後日?」

「明後日はある!」

語尾に強く声が集中して、力強くなっちゃった。

でも約束みたいだなって思っちゃって、中村くんと。


中村くんと次に会う約束をしてるみたい。


「明後日の現国は何時間目?」
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