辞書には載ってない君のこと

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「中村くんっ!」

いつしか中村くんの名前を呼ぶのが当たり前になっちゃって。

「いろは!」

名前を呼ばれるのにも少しだけ慣れた。

「今から現国ー?」

「うん、辞書借りに来た!」

このやりとりも何度目だろう、教室の外から中村くんを呼んで辞書をお願いする。

持って来てくれるまでの間、廊下で待ってるこの時間…


なぜかこの時間が1番ドキドキする。


この時間だけは慣れない。

慣れないどころか、日に日にドキドキする音が大きくなってる。廊下中に響かないかなって心配になっちゃうぐらい。

「いろは、お待たせ!」

中村くんが辞書を持って来てくれた。
はいって、差し出された瞬間ついニヤけちゃって。

「ありがとう」

ドキドキ鳴っている心臓は身体に吸収されて顔に現れるみたいに頬が緩むの。

「いろはって絵得意?」

「ううん、全然」

「そっか、どーりでこれだけ辞書貸しても何も描いてくれないと思った」

「得意でも人の辞書にラクガキなんかしないよ」

くすくす笑いながら中村くんから辞書を受け取って、触れそうになるギリギリの手に震えそうになって。


中村くんも笑ってた。 


今日も話せちゃった、中村くんと。

この時間が、1番楽しい。


どうってことない会話を、中村くんと笑い合ってするのが。

私の中で大きくなってた。


だから、周りが見えてなかったのかな。
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