辞書には載ってない君のこと

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「ただいま」

現国の授業で辞書がいらない時なんかあるわけなくて、源本先生に怒られてさらに宿題も出された。

私が忘れたのが悪いんだからね、宿題はしなきゃね。


でも辞書がないんだよ…


ハァと肩を落としながら家に帰って来ると、リビングから陽気な声が聞こえて来た。

「いーろはっ!お帰り!」

「お兄ちゃん…」

スマホの充電器のコードの接続が悪いからって私の辞書を重しとして使用するのに持っていた張本人…

あ、帰って来てたんだ。

「ケーキ買って来たんだけど食う?」

「ううん、今はいい。それより国語辞典は?持って来てくれた?」

私が今欲しいのはケーキより辞書、じゃないと宿題できないし忘れたらまた宿題は増えていくんだから。

「持って来たさ!」

じゃーんっと言わんばかりにかばんから辞書を取り出した。

「充電器新しいの買ったんだ、今まで俺のスマホを助けてくれたお礼にいろはにケーキ買って来たんだけど」

なんとしてでも一緒にケーキを!オーラをひしひしと感じる…
だけど、ケーキ食べてる場合じゃないの。

てゆーかそんな気分でもないの。

「私宿題しなきゃだから」

「食べてからでいいじゃん」

「よくない!お兄ちゃんのせいで宿題することになったんだから!」

「え、何それ」

本当は言いたいことがいっぱいあった。

お兄ちゃんが持って行ったせいで余計な気苦労することになったし、源本先生は怖いし、この宿題だって本当はしなくてもいいはずなんだから…!

っていっぱい言いたかったはずだった。

「私宿題するから邪魔しないでね!!」


でもね、これがなかったら中村くんと仲良くなることもなかったかもしれないの。
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