辞書には載ってない君のこと

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「いろは、どうしたの?」

現国の授業が終わってすぐに辞書を隣の隣のクラスまで返しに来た。10分の放課、急いで返さなきゃって走って来た。

永華(えいか)~…っ」

「何?どした?」

本当は永華に借りるつもりだった、だけどいなかったからどうしようかなってオドオドしてたらスッと差し出されて思わず…

だって目の前に辞書があったんだもん。

貸してくれるならって受け取ったけど、授業は本当に助かったけど、今めちゃくちゃ困ってる…

「辞書貸してくれた子がわかんないのどーしよう!?」

「え?」

名前も何も聞いてなかった!
とりあえず教室(ここ)に来ればいいかなって思ったけど、いないっぽいし返しといてって言うにも名前がわからないからそれもできなくて…

詰んでる。

「名前書いてないの?」

「辞書だもん書いてないよっ」

「あ、そっか…じゃあ顔は?どんな顔してた??」

「顔は…」

くりくりとした瞳に、ほわほわな肌で、笑うとぷくって頬が上がる…

「チワワみたいだった!」

「すっごい分かりづらい情報提供ありがとう」

思ったように答えてみたのに永華には伝わらなかった。精一杯伝えてみたつもりだったのに。

「もうすぐ授業始まるし、次の放課にまた来てみたら?その時はいるかもしれないし」

「うん…じゃあそうする」

もう現国の授業終わったって言ってたし、もう少し返すの遅くなってもいいかなぁ。このまま持って帰るのはちょっとあれだけど、しょうがないまた来よう。

「ありがとう永華、また来るね!」

「うん、ばいばい」

もう1回持ち帰って、また返しに来よう。手掛かりが私の記憶しかないから直接返す以外どうにもできないし、少し遅くなってもいいよねたぶん。

永華に手を振って自分の教室へ戻ることにした。
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