辞書には載ってない君のこと
階段を上って自分の部屋に、もう一度ハァと息を吐いて勉強机の前に座った。

スクールバッグから現国のノートと源本先生から出された宿題のプリントを取り出して、返って来た国語辞典を机に並べる。

宿題、しなきゃ。

源本先生がピックアップした単語を辞書で引く、そんなに難しくないちょっとめんどくさいけど辞書さえあれば簡単な課題。

私にはもう戻って来た辞書があるんだ、これぐらいね…


「……。」


プリントを前に辞書をペラペラめくった。

なーんも描いてないな。

最近は縁に収まりきらないキッシリ埋め尽くされたイラストに囲まれたから、何も書いてない辞書はなんだか新鮮で。

これが普通なんだけどね。

なんか変な感じだよね。


変なの…


なぜだか物足りなくなっちゃう。


果物に野菜に、思い付くまま描いたものや目の前にあったんだろうなっていうシャーペンや消しゴム…

私の知らないキャラクターの絵もあったな。

あれは中村くんの好きなアニメのキャラクターかなぁ?あーゆうアニメが好きなのかな?


まるで中村くんの頭の中を覗いてるみたいだった。


楽しみだったの、辞書を開くのが。


今日は何が描いてあるのかなって。


毎回毎回増えていくイラストに私の心は新しい世界に出会ったみたいだった。



中村くんに出会ったんだ。



“あっちゃんに会うための口実だよ”

もう口実もなくなっちゃったな。


もう会いに行けないよ。

涙が溢れて来る、想えば思うほど止まらなくて。


どうしたらよかったの?


どうしたら中村くんと上手く恋ができたの?



ここからどうしたらいいの?



そんなの辞書には書いてない。


まっさらな辞書にシャーペンの芯を乗せる。


私は絵なんか書けないし、みんなみたいに呼ぶこともできない。



でも本当は、呼んでみたかった。


私も、呼びたかった。



言えない気持ちを辞書に書くぐらいしかできない。




“あっちゃんが好き”




書くぐらいしか…
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