辞書には載ってない君のこと

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国語辞典が戻って来た。

これで借りに行かなくてもいいし、忘れちゃったなんて心配もない。

宿題だってできるし、授業中気になったことはすぐ調べられるしまっさらな辞書は物思いにふけることもない。


だた1つ思うのは、隣の隣のクラスって案外遠いってこと。


わざわざ隣の隣のクラスまで行かなくても永華とは遊んだり話したりするし、借りに行くことがなくなればあまり用事がなくて。



だからあれから中村くんとは話してない…



「いろは、辞書貸してくれない?」

「……。」

午後の最後の授業前、次の授業の準備をしていると話しかけられた。

「中村くん…!」

しかも教室の中まで入って来て、いつも廊下から名前を呼んでいた私とは違って堂々としていた。

「次現国なんだけど辞書忘れちゃったんだ、貸してくれない?」

「…いいけど」

私たちのクラスも現国の授業があった、だから辞書は持って来てるけど… 

すでにスクールバッグの中に入れちゃった辞書をもう一度取り出して中村くんに渡した。

「ありがとう!」

受け取るとすぐに中村くんは教室から出て行こうとドアの方へ向かう、だけどくるっと私の方を向いて持っていた辞書を上に掲げた。

「終わったら返しに来るから!」

これが今日の最後の授業、つまり全部が終わって時間が出来るのは掃除をしてホームルームが終わったあとになる。

「絶対返しに来るから、待っててね!」

なぜか念を押されるみたいに言われた。

それは帰らないけど、辞書返してもらわないと困るし。


……。

久しぶりに話しからちょっと緊張しちゃった。全然上手く話せなかったなぁ…

「…はぁ」

もっとちゃんと会話ができたらいいのにって思ったらタメ息が出ちゃった。

でも、返しに来てくれるってことは…


また会えるってことだよね?
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