辞書には載ってない君のこと
「ちなみに名前知ってたのは呼ばれてるの聞いただけだから」

「……。」

本当に透視能力でも何でもなかった。 
ただ周りをよく見てるだけの人だった。

「てかいろは辞書持ってないの?」

「あ、それはお兄ちゃんが…」

あんまり言いたくないお兄ちゃんの話をすることになってしまった。こんなトンチキ兄がいるなんて、永華以外にはあまり知られたくなかったんだけど…

「兄ちゃんもめっちゃおもしろいじゃん!」

「……。」

でもすごい中村くんは笑ってくれた。

じゃあいいか、あんなお兄ちゃんでも笑ってもらえたなら少しでも役に立ったね。勝手に私の国語辞典持って行ったことはまだ許してないけどね。

「あっちゃん、あっちゃん!ちょっと来てよ!!」

教室のドアから現れた男の子が手招きをして呼んだ。


あっちゃん…

男の子も女の子のみんなそう呼ぶんだ。


「え、何何?」

「来て来て!ウケるから!」

みんなにそう呼ばれるくらいだから人気者なのかな中村くんは。

「ごめんね、いろは!」

「ううん、辞書返しに来ただけだから」

「じゃあまたね!」

またね、ただ辞書を借りただけの私に次があるみたいに。

きっと何気なく発しただけの言葉だったと思うけど、自ら拾うようにその言葉だけ切り取っちゃった。


次も、中村くんに借りてもいいのかなぁ?
< 9 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop