その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
1章
1 必要ないもの
ティアナ・モルガンはその晩も美しい笑顔を浮かべてその場にいる者達の羨望の的となっていた。
会場に入ってから吊り上げっぱなしの口元はすでに固まりきってしまい、無意識下でも形状記憶のごとくその角度を保ってくれている。
少し歩けば声を掛けられ、にこやかに応対する彼女の隣には、彼女の婚約者であるスペンス侯爵家の嫡男グランドリー・ロドレルが穏やかな笑みを浮かべて彼女の細い腰を支えている。
貴族院の議長を父に持つ彼は整った顔立ちがさわやかでいて紳士的で、将来を約束された男だ。ティアナが隣にいなければ多くの令嬢が彼のもとに殺到したであろう。
二人の並ぶ姿はことさら美しく、仲睦まじくお似合いの二人の中に割って入ろうなどと思う者は、この社交界にはいない。
皆の羨望に、素敵な婚約者。
誰もがうらやむそれは
ティアナにとっては、どれも不必要なものであった。
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