その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

104 要求

そんなに心配しなくていいよ、時期に戻ってくるさ。

不敵に微笑んだリドックの言葉に私は眉を寄せる。

「もうすぐ2部が始まるわ。こんなところで話なんてできないわ」

「ん、まぁそうなんだよね。たしかに君の言う通り、このまま話していたら迷惑になる。恐らく護衛達が戻ったら扉を叩いて大騒ぎになる。そうしたら、2部が始まるどころではなくなるよね?」


困ったね? と微笑んで首を傾けるリドックが私に言わんとしている事はわかる。

自発的にここを出て、2人でどこかで話をしよう……といいたいのだ。


偶然と言いながら、恐らくは彼の何らかの策略が働いている。
このままついて行くことは避けた方がいい事は分かっているけれど、騒ぎになる事もできない。


「夫の方から話し合いの場を設ける提案はしているはずよね? わざわざこんな時に騒ぎを起こす必要はないでしょう?」

もともとこちらは私を含めた話し合いをしたいと言う彼の要望通りに、きちんと段取りは組んでいる。それにいつまでも返事をよこさないのはリドック側であるはずなのに、こんな無理矢理な事をされる言われはない。


私の問いに、リドックは「ははっ」と皮肉気に笑って肩を含める。

「ロブダート卿の手の内で、彼のシナリオ通り行われる話し合いなんて、やつに都合がいい話になるに決まっている。君だって、あの男がいる前では、本音なんて話せないだろう?」

随分とひねくれた持論で、一蹴すると「だから、俺は今ここにいるんだよ」と、つぶやいて私を見つめる。

「きちんと、君の本当の想いを聞きたいんだ。一度結婚したからとか、兄のもと婚約者だったとか、世間体は抜きで……どんな答えになろうとも、俺は君のために知恵を絞ることを約束する」

途端に甘い囁きのように訴えてくる、その言葉の意味がわたしには一切心当たりもないもので……

リドックは、今も尚、私が彼と添うことを希望していると疑っていないらしい。

数日前に届けさせた手紙は都合よく彼の中で忘れられているのか、はたまたあの手紙自体が、私が夫に言われて書かされたものだと思い込んでいるのかもしれない。

この人は、これほどまでに話しが通じない人であっただろうかと、胸の奥がザワザワと騒ぎだす。

そうであるならば、彼が望んだ状況下で、間違いなく私の口から私の言葉で伝えなければ、きっと納得はしないだろう。

胸の前で両手を握りしめて、ゆっくりと息を吐く。

「分かったわ。でも遠くには行けないから……劇場の外にあるティーショップでいいかしら?」


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