その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
107略り【ラッセル視点】
「すみません。せっかくのお休みを……」
医務室に到着し、近隣から呼ばれて駆けつけてきていた医者の診察をアンジェリカ嬢が受ける間、申し訳なさそうに詫びるディノの肩を叩く。
「謝らなくていい、君や彼女に落ち度はないだろう?」
「そうですが……それでも多大なご迷惑を……刃物の確保に駆けつけてくれた男は、ロブダート家の者ですよね」
「たしかにそうだが、それくらいのこと彼には造作ない事だよ。なんなら彼の仕事でもある」
ダルトンは俺が手出しをしないように先に動いただけだ。主人が危ない事に首を突っ込まないようにするのも彼等の仕事でもある。
皮肉気に笑って肩をすくめると、ディノは不思議そうに瞳をパチクリさせたが、真意を追求する事はなかった。
「まさか、あの男がこんな事をするなんて……正直ここまでだったとは、僕も驚いていて正気ではいられなかったので、声をかけていただけて良かったです」
辟易したように眉を下げるディノの肩を叩く。
「推測するに、彼女のお家の跡取り問題か……大変そうだな」
「えぇ、以前から彼女の叔父親子が、跡取りの座を狙ってアンジェリカとの結婚を画策していたと言うのは聞いていましたが、それも俺との婚約でようやく諦めたのだろうと聞かされていたのですが……」
「最近までこうなる前兆はなかったのか?」
不思議に思って問うが、ディノは困惑したように首を振る。
「全くありません。むしろ俺は面識もなくて、彼女が悩んでいる様子も無かったし」
「突然だったのか?」
妙な話だと眉を寄せると、医務室の奥の診察室の扉が開いて、落ち着きを取り戻したアンジェリカ嬢が戻ってきた。
「アン、大丈夫か?」
「えぇ、ごめんなさい、こんな事になってしまって……」
すぐに駆け寄るディノにアンジェリカ嬢は申し訳無さそうに俯く。
「君のせいではないよ! あんなことが起こるなんで誰も予想できない。とにかく君に怪我がなくてよかった」
婚約者の髪を撫でるディノの肩越しに、彼女と目が合う。
「ロブダート卿も、せっかくお楽しみのところを申し訳ありません。沢山の方に迷惑をおかけしてしまったわ」
そう言って泣きそうに瞳を潤ませた彼女に「そんな事は気にしないでほしいと告げようと口を開きかけたその時
「スペンス卿にもお詫びしないといけないわね。せっかく鑑賞券をお譲りいただいたのに……」
彼女の口から信じられない言葉が飛び出した。
スペンス卿……彼女がそれを指す人間は…
一瞬にして一人の男の顔が浮かぶ。
そう、今なによりも俺が動向を警戒している男……
反射的に、部屋を飛び出そうと、身体を反転させる。丁度目の前で医務室の扉が開いたところで……
「旦那様! 申し訳ありません! 騒ぎに対応している隙に、奥様のお姿が席から消えてしまわれました!」
飛び込んできたのは、ダルトンと共に警護に付けていたもう一人の男で、彼は確かティアナの護衛のために部屋の外に控えさせていた筈だった。
「奥様が行かれそうな場所は館内全て探しましたが、お姿はなく……ロビーの者が、奥様が着ていたドレスとよく似たものをお召しの女性と、一人の男が劇場を出て行くのを見たと! 男の容姿の特徴を聞いてみたところ、極めてリドック・ロドレルに近いかと……申し訳ございません!」
深々と頭を下げて悲痛な面持ちで説明をする家人を信じられない思いで見下ろす。
「なるほど……そう言うことか!」
全てが頭の中で繋がった。
今日ここに、俺がティアナを伴って来ること、そしてディノとアンジェリカ嬢も居合わせて、ニコラスと言う男が襲撃して来ることも、全てリドックの謀だったのだ。
医務室に到着し、近隣から呼ばれて駆けつけてきていた医者の診察をアンジェリカ嬢が受ける間、申し訳なさそうに詫びるディノの肩を叩く。
「謝らなくていい、君や彼女に落ち度はないだろう?」
「そうですが……それでも多大なご迷惑を……刃物の確保に駆けつけてくれた男は、ロブダート家の者ですよね」
「たしかにそうだが、それくらいのこと彼には造作ない事だよ。なんなら彼の仕事でもある」
ダルトンは俺が手出しをしないように先に動いただけだ。主人が危ない事に首を突っ込まないようにするのも彼等の仕事でもある。
皮肉気に笑って肩をすくめると、ディノは不思議そうに瞳をパチクリさせたが、真意を追求する事はなかった。
「まさか、あの男がこんな事をするなんて……正直ここまでだったとは、僕も驚いていて正気ではいられなかったので、声をかけていただけて良かったです」
辟易したように眉を下げるディノの肩を叩く。
「推測するに、彼女のお家の跡取り問題か……大変そうだな」
「えぇ、以前から彼女の叔父親子が、跡取りの座を狙ってアンジェリカとの結婚を画策していたと言うのは聞いていましたが、それも俺との婚約でようやく諦めたのだろうと聞かされていたのですが……」
「最近までこうなる前兆はなかったのか?」
不思議に思って問うが、ディノは困惑したように首を振る。
「全くありません。むしろ俺は面識もなくて、彼女が悩んでいる様子も無かったし」
「突然だったのか?」
妙な話だと眉を寄せると、医務室の奥の診察室の扉が開いて、落ち着きを取り戻したアンジェリカ嬢が戻ってきた。
「アン、大丈夫か?」
「えぇ、ごめんなさい、こんな事になってしまって……」
すぐに駆け寄るディノにアンジェリカ嬢は申し訳無さそうに俯く。
「君のせいではないよ! あんなことが起こるなんで誰も予想できない。とにかく君に怪我がなくてよかった」
婚約者の髪を撫でるディノの肩越しに、彼女と目が合う。
「ロブダート卿も、せっかくお楽しみのところを申し訳ありません。沢山の方に迷惑をおかけしてしまったわ」
そう言って泣きそうに瞳を潤ませた彼女に「そんな事は気にしないでほしいと告げようと口を開きかけたその時
「スペンス卿にもお詫びしないといけないわね。せっかく鑑賞券をお譲りいただいたのに……」
彼女の口から信じられない言葉が飛び出した。
スペンス卿……彼女がそれを指す人間は…
一瞬にして一人の男の顔が浮かぶ。
そう、今なによりも俺が動向を警戒している男……
反射的に、部屋を飛び出そうと、身体を反転させる。丁度目の前で医務室の扉が開いたところで……
「旦那様! 申し訳ありません! 騒ぎに対応している隙に、奥様のお姿が席から消えてしまわれました!」
飛び込んできたのは、ダルトンと共に警護に付けていたもう一人の男で、彼は確かティアナの護衛のために部屋の外に控えさせていた筈だった。
「奥様が行かれそうな場所は館内全て探しましたが、お姿はなく……ロビーの者が、奥様が着ていたドレスとよく似たものをお召しの女性と、一人の男が劇場を出て行くのを見たと! 男の容姿の特徴を聞いてみたところ、極めてリドック・ロドレルに近いかと……申し訳ございません!」
深々と頭を下げて悲痛な面持ちで説明をする家人を信じられない思いで見下ろす。
「なるほど……そう言うことか!」
全てが頭の中で繋がった。
今日ここに、俺がティアナを伴って来ること、そしてディノとアンジェリカ嬢も居合わせて、ニコラスと言う男が襲撃して来ることも、全てリドックの謀だったのだ。