その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
109 もしも…
「そんなにも私の立場に気を遣ってくれていたのに、ごめんなさい。貴方が聞きたいと言っている私の本心は、本当にあの手紙に書いた通りなの!」
意を決して彼を見据えて、はっきりと告げる。
遠回しな言い方では、きっと彼も納得しないだろう。
もう一度「ごめんなさい」と告げ、頭を下げる。
「あの頃の私は、周囲に恵まれ過ぎて本当に世間知らずだったの。だから血を分けた兄弟ならば、例え今が不仲でもいずれは歩み寄れるのだと思っていたの。貴方とグランドリーも大人になれば……って。だからあの時、貴方がスペンス家に入って事業を共にやろうって言ってくれたのは、当主のグランドリーが政治家として家業を継いで、グランドリーの危うさを支える意味で事業を始めようとしていたのだと思ったの」
「はっ? 馬鹿な! 本当に俺がそんなお人好しだと思っていたの?」
わたしの話に、眉を顰めたリドックが呟く。
まるでそんな事考えたことなどないとでも言うように不快感を露わにしている。
やはりあの頃の私は甘かった。スペンス家の闇を知っていながらさほど重大には感じていなかったのだ。
「少なくとも、貴方が言う私と将来を誓い合ったと言う話をした時には、私はそれを信じて疑っていなかった。でも、月日が経ってスペンス家に頻繁に出入りするようになって、貴方とグランドリーとお継母様の関係性を見て行くうちに、そんな事は不可能だって分かったわ。逆に貴方にはこの家と関わりなく自由に生きて欲しいと思うようになった。だから、貴方が学院を卒業後に留学すると聞いて、貴方は家を捨てて自由になるのだと安心すらしていたわ。その方が貴方が幸せになれるって……貴方がスペンス家をグランドリーと支える事を諦めたのだと思っていた」
「っ、じゃあ、最初から、君の中には俺と結婚をすると言うプランすらなかったのか? そんな馬鹿な……」
ダンッとリドックがテーブルを叩くと、身を乗り出す。
逆に私はわずかに身体を引いて彼を見上げる。
「私はグランドリーと添い遂げなければいけないとずっと思いながら生活していたわ。今の夫に求婚されるまでずっと……あの日の放課後、多分私たちは随分と大きなボタンの掛け違いをしていたのだと思う。ごめんなさい。もし私の為に貴方が戻りたくもない場所に戻ってきてしまう事になってしまったのなら……」
「そうだよ! 君がいるから! 君と結婚するためだけに、俺は国外へ一旦出て、力をつけた! いずれあの愚兄を陥れて蹴落とすつもりで、その計画だって進んでいたんだ! それなのにあの男……ロブダート卿が余計な事を!」
ダンッともう一度リドックがテーブルを叩く。その拳は怒りで震えている。
ギャルソンがティーセットを二つ持ってきて、気遣わしげに私たちを見ると、そそくさと下がって行った。
その流れで、リドックが少しだけ冷静さを思い出したように、大きく息を吐くと、紅茶を一口飲む。
「すまない。あまり力が入ると君を怖がらせてしまうな。俺はあの馬鹿な兄とは違う。君に怖い思いをさせるつもりはない」
そう言って自身の気を落ち着けるように天を仰いでもう一度息を吐くと、足を組み替えて椅子の背もたれに背を預ける。
「とにかく……君の主張はロブダート卿によって作り出されたものではないと……俺との結婚の約束は君には身に覚えがなくて、俺たち二人の行き違いだったと……」
「そうね……ごめんなさい」
「なるほど…だから君は簡単にロブダート卿の手を取って結婚してしまったのか……俺の事なんて頭の片隅にも無かったから」
理解したと言うように頷いた彼はもう一度紅茶を飲み、ゆっくりとソーサにカップを置いた。
「ならば、きっと俺にもチャンスはあったのだね? もしあの馬鹿が君に暴力を振るう前に、俺があいつを引き摺り下ろしていたのなら、君は俺と結婚する事は受け入れてくれた?」
落ち着いた声音で諭すように問われて、私は困惑する。
もし、婚約期間中に跡取りが変わるような事があったのならば、スペンス家に援助を受けていた我が家は……そのまま私を嫁がせただろう。そして、私も多分納得して……
けれど、今この場で「そうだった」と答える事がとてつもなく危険なことのように思えた。
私の言質を取って、リドックが何か言い出すのではないかと……
それに、もしかしたら……
「っ……ごめんなさい。わからないわ」
「嘘だね!」
考えあぐねて出した言葉を、リドックの鋭い言葉が遮った。
ハッとして彼を見れば、彼は皮肉気に微笑んで、私を観察するように見ていた。
「君は、本当にひどいひとだよね。俺に諦めさせる為に嘘をつくんだ? あの時君の家は我が家の言いなりだった。君は俺と結婚する事を承知した筈だ!」
意を決して彼を見据えて、はっきりと告げる。
遠回しな言い方では、きっと彼も納得しないだろう。
もう一度「ごめんなさい」と告げ、頭を下げる。
「あの頃の私は、周囲に恵まれ過ぎて本当に世間知らずだったの。だから血を分けた兄弟ならば、例え今が不仲でもいずれは歩み寄れるのだと思っていたの。貴方とグランドリーも大人になれば……って。だからあの時、貴方がスペンス家に入って事業を共にやろうって言ってくれたのは、当主のグランドリーが政治家として家業を継いで、グランドリーの危うさを支える意味で事業を始めようとしていたのだと思ったの」
「はっ? 馬鹿な! 本当に俺がそんなお人好しだと思っていたの?」
わたしの話に、眉を顰めたリドックが呟く。
まるでそんな事考えたことなどないとでも言うように不快感を露わにしている。
やはりあの頃の私は甘かった。スペンス家の闇を知っていながらさほど重大には感じていなかったのだ。
「少なくとも、貴方が言う私と将来を誓い合ったと言う話をした時には、私はそれを信じて疑っていなかった。でも、月日が経ってスペンス家に頻繁に出入りするようになって、貴方とグランドリーとお継母様の関係性を見て行くうちに、そんな事は不可能だって分かったわ。逆に貴方にはこの家と関わりなく自由に生きて欲しいと思うようになった。だから、貴方が学院を卒業後に留学すると聞いて、貴方は家を捨てて自由になるのだと安心すらしていたわ。その方が貴方が幸せになれるって……貴方がスペンス家をグランドリーと支える事を諦めたのだと思っていた」
「っ、じゃあ、最初から、君の中には俺と結婚をすると言うプランすらなかったのか? そんな馬鹿な……」
ダンッとリドックがテーブルを叩くと、身を乗り出す。
逆に私はわずかに身体を引いて彼を見上げる。
「私はグランドリーと添い遂げなければいけないとずっと思いながら生活していたわ。今の夫に求婚されるまでずっと……あの日の放課後、多分私たちは随分と大きなボタンの掛け違いをしていたのだと思う。ごめんなさい。もし私の為に貴方が戻りたくもない場所に戻ってきてしまう事になってしまったのなら……」
「そうだよ! 君がいるから! 君と結婚するためだけに、俺は国外へ一旦出て、力をつけた! いずれあの愚兄を陥れて蹴落とすつもりで、その計画だって進んでいたんだ! それなのにあの男……ロブダート卿が余計な事を!」
ダンッともう一度リドックがテーブルを叩く。その拳は怒りで震えている。
ギャルソンがティーセットを二つ持ってきて、気遣わしげに私たちを見ると、そそくさと下がって行った。
その流れで、リドックが少しだけ冷静さを思い出したように、大きく息を吐くと、紅茶を一口飲む。
「すまない。あまり力が入ると君を怖がらせてしまうな。俺はあの馬鹿な兄とは違う。君に怖い思いをさせるつもりはない」
そう言って自身の気を落ち着けるように天を仰いでもう一度息を吐くと、足を組み替えて椅子の背もたれに背を預ける。
「とにかく……君の主張はロブダート卿によって作り出されたものではないと……俺との結婚の約束は君には身に覚えがなくて、俺たち二人の行き違いだったと……」
「そうね……ごめんなさい」
「なるほど…だから君は簡単にロブダート卿の手を取って結婚してしまったのか……俺の事なんて頭の片隅にも無かったから」
理解したと言うように頷いた彼はもう一度紅茶を飲み、ゆっくりとソーサにカップを置いた。
「ならば、きっと俺にもチャンスはあったのだね? もしあの馬鹿が君に暴力を振るう前に、俺があいつを引き摺り下ろしていたのなら、君は俺と結婚する事は受け入れてくれた?」
落ち着いた声音で諭すように問われて、私は困惑する。
もし、婚約期間中に跡取りが変わるような事があったのならば、スペンス家に援助を受けていた我が家は……そのまま私を嫁がせただろう。そして、私も多分納得して……
けれど、今この場で「そうだった」と答える事がとてつもなく危険なことのように思えた。
私の言質を取って、リドックが何か言い出すのではないかと……
それに、もしかしたら……
「っ……ごめんなさい。わからないわ」
「嘘だね!」
考えあぐねて出した言葉を、リドックの鋭い言葉が遮った。
ハッとして彼を見れば、彼は皮肉気に微笑んで、私を観察するように見ていた。
「君は、本当にひどいひとだよね。俺に諦めさせる為に嘘をつくんだ? あの時君の家は我が家の言いなりだった。君は俺と結婚する事を承知した筈だ!」