その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
113 言いたくなかった言葉
ラッセルの静かな怒りの声が、その場に静寂をもたらす。
私の肩を掴み引き寄せる彼の手の力が強くなり、顔は見えなくとも彼がとても怒っているのは分かった。
「犯罪をけしかけて、その隙に女性を連れ出して、その上自分の意に沿わないからと強要した上で連れ去ろうとする行為……それでも自分が正しいと思うのか、リドック・ロドレル?」
怒りを含みながら問うような彼の言葉に対してリドックが舌打ちする音が響く。
「えらそうに講釈を垂れるお立場ですか? ロブダート卿。あなたのやり方だって十分正しくはなかったでしょう? 貴方だって、彼女の弱みにつけ込んで、契約結婚にこぎつけた。これならまだ問題はないかもしれない、でも実際はその前からあんたは婚約者がいる身であるティアナに声をかけていた。だからあの馬鹿を暴挙に走らせる事になった。そうだよな、ディノ?」
「確かに……それは……」
リドックの問いに歯切れ悪く答えるディノは、どうやらその頃から何か絡んでいたらしい。
「なるほど……あの頃何故か俺とティアナが接触した事が逐一グランドリーに伝わっていたのはそう言うことか……」
「っ、違うんです。ロブダート卿……俺はただ、激昂したグランドリーが暴走して問題を起こすんじゃないかと思って……決して貴方やティアナ嬢を害すつもりはありませんでした。とにかく事が上手く行けばリドックがこちらに戻れる足掛かりになると思っただけで……」
そう云えばあの頃、ラッセルと関わるとすぐにグランドリーが反応していた。その場にいないはずの彼が何故知っているのかと不思議に思う事は幾度かあった。
あれは、どうやらディノの仕業らしい。
「結果俺の予定を大いに狂わせて、こんな厄介な状況になってしまったがな?」
「っ、そこまでは、俺もまさかあんな直後にあまりにも軽率に……しかも女性に手を出すなんて思いもしなかったんだ! しかもロブダート卿が後を追っていたなんて……」
どうやら話は、グランドリーと私が馬車の中でトラブルになったあの晩の話になっているようだ。
「中途半端に手を出した結果だ。おかげでこちらは面倒を被った」
「っ……だから今回だって協力しただろう‼︎ ロブダート卿にお前とティアナ嬢が将来を約束していた話しだって伝えたし、お前が入る余地を作るために、殿下の仕事を滞らせたり、殿下とロブダート卿の話を流したりしたじゃないか!」
「まさかそんな事が償いだとでも言うのか? 子の使いレベルの事で?」
またまた始まる、リドックとディノの言い合いは、とどまる事を知らない。
おかげで、今まであった不可解の謎が次々と解けていくけれど……
聞けば聞くほど、幼稚で自分勝手な主張ばかりで、呆れてしまう。
それは私を抱き込んでいる夫も同じようで、窺うように顔を上げると。
うんざりしたように肩を竦められた。
彼の胸から頬を離して支えてもらいながらゆっくり立ち上がる。
やはり先ほどの転倒で足を痛めてしまっているようで、足首にわずかに痛みが走るものの、自立することは何とかできた。
いつの間にか呼吸も震えも、収まって落ち着いている自分の状況を確認して、息を吸う。
「もぅ、いい加減にしてください。侯爵家の後継者とも、殿下をお守りする騎士とも思えないほどに見苦しい醜態をさらして見るに堪えません。恥ずかしくはありませんの?」
はっきりとした言葉が喉から出て来た事に内心安堵して、そんな私を励ますように夫が身体を支えてくれる。
またしてもシンっとその場が静まり返って、リドックとディノの視線が私を捕らえる。
「リドック!」
リドックが何か反論しようとするのを、先に彼の名を呼んで制する。
「数年前、確かに私とあなたとの間で齟齬が起きていた事は、申し訳なく思うわ。そして、そのためにあなたの人生を左右することになってしまった事も……お互いに反省すべき点はあると思う。確かに私は私の中の解釈をしてそれが間違っていないと信じ込んでいたわ。浅はかだったと思うわ。でも、貴方も同じ。貴方も「共にスペンス家で事業をやろう」と約束しただけで私が結婚に同意したと解釈した。違う?」
「っそれは、そうだよ……でもっ!」
「いまさらと思うかもしれないけれど……もしあの時、貴方の口からグランドリーと置き換わることや結婚という言葉を聞いていたのなら、私は確実にあなたの申し出を断ってい居たわ……それだけはこれほど時間が経ってしまった今でも断言はできる」
「っ、な!」
きっぱりと告げる私の言葉に、リドックが眉をしかめて睨みつけて来る。その表情は似てはいないはずなのに、彼の兄を彷彿させる。
ドクドクと鼓動が早くなるのを胸元をしっかり握りしめ、自分を奮い立たせる。
すぐそばに、夫の温もりがある。大丈夫、彼が付いていてくれる。自身に言い聞かせると、リドックの反論を待たず口を開く。
本当は、ここまでの事を彼に言いたくはなかった。
でも、言わなければ、きっと彼には伝わらない。
「あの時の私にとっては、グランドリーもあなたも同じだった。特に好意や愛情を感じていた訳でもなくて……ただ私の大好きな家族のために結婚する相手と言うだけ。だから、もしあなたが何か波風を立てようとしていたと知っていたら「やめて欲しい」と伝えていたわ。波風を立ててまで、貴方と結婚するメリットが私にはなかった。そうであるならグランドリーと平和に夫婦になる方を選んでいたわ……結局平和には行かなかったのは残念だったけれど……」
私の肩を掴み引き寄せる彼の手の力が強くなり、顔は見えなくとも彼がとても怒っているのは分かった。
「犯罪をけしかけて、その隙に女性を連れ出して、その上自分の意に沿わないからと強要した上で連れ去ろうとする行為……それでも自分が正しいと思うのか、リドック・ロドレル?」
怒りを含みながら問うような彼の言葉に対してリドックが舌打ちする音が響く。
「えらそうに講釈を垂れるお立場ですか? ロブダート卿。あなたのやり方だって十分正しくはなかったでしょう? 貴方だって、彼女の弱みにつけ込んで、契約結婚にこぎつけた。これならまだ問題はないかもしれない、でも実際はその前からあんたは婚約者がいる身であるティアナに声をかけていた。だからあの馬鹿を暴挙に走らせる事になった。そうだよな、ディノ?」
「確かに……それは……」
リドックの問いに歯切れ悪く答えるディノは、どうやらその頃から何か絡んでいたらしい。
「なるほど……あの頃何故か俺とティアナが接触した事が逐一グランドリーに伝わっていたのはそう言うことか……」
「っ、違うんです。ロブダート卿……俺はただ、激昂したグランドリーが暴走して問題を起こすんじゃないかと思って……決して貴方やティアナ嬢を害すつもりはありませんでした。とにかく事が上手く行けばリドックがこちらに戻れる足掛かりになると思っただけで……」
そう云えばあの頃、ラッセルと関わるとすぐにグランドリーが反応していた。その場にいないはずの彼が何故知っているのかと不思議に思う事は幾度かあった。
あれは、どうやらディノの仕業らしい。
「結果俺の予定を大いに狂わせて、こんな厄介な状況になってしまったがな?」
「っ、そこまでは、俺もまさかあんな直後にあまりにも軽率に……しかも女性に手を出すなんて思いもしなかったんだ! しかもロブダート卿が後を追っていたなんて……」
どうやら話は、グランドリーと私が馬車の中でトラブルになったあの晩の話になっているようだ。
「中途半端に手を出した結果だ。おかげでこちらは面倒を被った」
「っ……だから今回だって協力しただろう‼︎ ロブダート卿にお前とティアナ嬢が将来を約束していた話しだって伝えたし、お前が入る余地を作るために、殿下の仕事を滞らせたり、殿下とロブダート卿の話を流したりしたじゃないか!」
「まさかそんな事が償いだとでも言うのか? 子の使いレベルの事で?」
またまた始まる、リドックとディノの言い合いは、とどまる事を知らない。
おかげで、今まであった不可解の謎が次々と解けていくけれど……
聞けば聞くほど、幼稚で自分勝手な主張ばかりで、呆れてしまう。
それは私を抱き込んでいる夫も同じようで、窺うように顔を上げると。
うんざりしたように肩を竦められた。
彼の胸から頬を離して支えてもらいながらゆっくり立ち上がる。
やはり先ほどの転倒で足を痛めてしまっているようで、足首にわずかに痛みが走るものの、自立することは何とかできた。
いつの間にか呼吸も震えも、収まって落ち着いている自分の状況を確認して、息を吸う。
「もぅ、いい加減にしてください。侯爵家の後継者とも、殿下をお守りする騎士とも思えないほどに見苦しい醜態をさらして見るに堪えません。恥ずかしくはありませんの?」
はっきりとした言葉が喉から出て来た事に内心安堵して、そんな私を励ますように夫が身体を支えてくれる。
またしてもシンっとその場が静まり返って、リドックとディノの視線が私を捕らえる。
「リドック!」
リドックが何か反論しようとするのを、先に彼の名を呼んで制する。
「数年前、確かに私とあなたとの間で齟齬が起きていた事は、申し訳なく思うわ。そして、そのためにあなたの人生を左右することになってしまった事も……お互いに反省すべき点はあると思う。確かに私は私の中の解釈をしてそれが間違っていないと信じ込んでいたわ。浅はかだったと思うわ。でも、貴方も同じ。貴方も「共にスペンス家で事業をやろう」と約束しただけで私が結婚に同意したと解釈した。違う?」
「っそれは、そうだよ……でもっ!」
「いまさらと思うかもしれないけれど……もしあの時、貴方の口からグランドリーと置き換わることや結婚という言葉を聞いていたのなら、私は確実にあなたの申し出を断ってい居たわ……それだけはこれほど時間が経ってしまった今でも断言はできる」
「っ、な!」
きっぱりと告げる私の言葉に、リドックが眉をしかめて睨みつけて来る。その表情は似てはいないはずなのに、彼の兄を彷彿させる。
ドクドクと鼓動が早くなるのを胸元をしっかり握りしめ、自分を奮い立たせる。
すぐそばに、夫の温もりがある。大丈夫、彼が付いていてくれる。自身に言い聞かせると、リドックの反論を待たず口を開く。
本当は、ここまでの事を彼に言いたくはなかった。
でも、言わなければ、きっと彼には伝わらない。
「あの時の私にとっては、グランドリーもあなたも同じだった。特に好意や愛情を感じていた訳でもなくて……ただ私の大好きな家族のために結婚する相手と言うだけ。だから、もしあなたが何か波風を立てようとしていたと知っていたら「やめて欲しい」と伝えていたわ。波風を立ててまで、貴方と結婚するメリットが私にはなかった。そうであるならグランドリーと平和に夫婦になる方を選んでいたわ……結局平和には行かなかったのは残念だったけれど……」