その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

116 告白

足の怪我は幸い軽い捻挫で済んだ。

それでも3日ほどは歩いてはいけないという医師の指導を受けて私は強制的にベッドの上に上げられた。

知らせを先に受けていたマルガーナに半分泣きながら叱られて、散々世話を焼かれて落ち着いた頃、着替えを済ませた彼が入って来た。

手当を受けて離れている間、少しずつ冷静になった私の中では、色々な事を思い出して、ある疑念が湧いていた。

彼は踏み込んで来る前、いつから、どこから私とリドックの話を聞いていたのだろうか……

思えばリドックにきちんと私の想いを伝えたくてわき目も降らず随分大きな声で話していたように思う……

「夫の事を好き」だと話したのはどのタイミングだっただろうか。。
もしあれを聞かれていたのなら、彼はどう思っただろうか……


聞くに聞けない、どうしよう‼︎

視線を彷徨わせていると、そんな私の様子に彼は、心配そうに眉を寄せてベッドの脇に座り私の頬を撫でる。

「今ダルトンが戻って来た。リドックも落ち着きを取り戻して、ディノと共に店から出たそうだ。明日についてはリドックの様子次第でディノから連絡が来るそうだ」

「そう……私もこの足で行けるかしら?」

当然当事者の私がいなければリドックは納得しないはずだ、私の問いに彼は頷いて私の髪を撫でる。

「できるだけの事はする」

今日最後にみたリドックの姿を思い出す。
怒り叫んでいたときの彼に比べ随分とトーンダウンしていた所を見ると、彼も自分が言っている事がめちゃくちゃな事を理解はしたのだろう。

学生時代、頭も良くて同級生の中ではどこか大人びているような印象だった彼が、あんな風になるほど私を拠り所にしていた事には驚いた。その気持ちに応えられない事への申し訳なさと、もっと早く誤解を解けていたらという後悔が胸を締め付けた。


そんな中、扉をノックする音が部屋に響き、彼が立ち上がる。
扉の向こう側に居たのはクロードのようで2.3言葉を交わすとまた扉を閉じた。

戻って来た彼に問うような視線を送れば、先ほどより彼がいくばかりか緊張した面持ちをしている。

何か悪い知らせだったのかと不安になって見上げていると、先ほどの場所に再び腰を落ち着けた彼が、姿勢を正して改まったように真っすぐと私を見下ろした。

「すまない、本当ならば君から言われるまで待つべきなのかもしれない。しかし、知ってしまったからには、聞かないわけにはいかない。さっき君とリドックを探していた際に、耳にしてしまった事があって……」

そう言いずらそうに言う彼の言葉に、私は息を飲む。

やはり、私とリドックの話は彼に聞かれていたのだ……


『夫を愛してるの。彼の側以外で私は生きていくつもりはないわ』

一気に顔に熱が上がってくる。
こんな、明け透けな言葉を聞かれてしまったなんて恥ずかしすぎて、今すぐ逃げ出したい。
だいたい、私が勝手に想いを抱いているだけで、彼がどう思っているかなんてわからないのだ。
迷惑に思われていたら、この気持ちには答えることはできないと言われたら……

「っ、違うのっ……違わないけど……私が勝手に想っているだけで、貴方に応えて欲しいわけではなくて……だから、負担に思わないで欲しいの! 今まで通りで私は構わないの! ただ、側に居られたら……私は満足だから!だから忘れて……」

慌てて彼の服の裾をつかむと、弁明の言葉を並べる。
彼とは今の関係でも十分幸せだから、この関係を崩すことだけはしたくはなかった。

見上げた彼は、私の剣幕に圧倒され驚いたように私を見つめると、「とんでもない!」と声を上げる。


「そんな、大事な事……忘れるなんてできるはずないだろう? 確かにまだ分からない時期かもしれないが……大切にしなくちゃ……とにかく落ち着いて……やはり君から聞くまで待った方がよかったかな?」


そう言って背中を撫でる手がゆっくりと前に回ってきて、彼のあたたかくて大きな手が私のお腹を包む。

耳にしてしまった事って、こちら方の事だったのか‼︎
理解すると共に、肩から一気に力が抜けて、額を覆いながら脱力する。
危なかった! 少し間違っていたら、私は弁明したつもりの中で自爆してしまうところだったのだ。
決定的な事を口走らなくてよかった……

心のそこで盛大に安堵の息を吐いた。
そんな私を彼は気遣わし気に覗き込んで、妊娠の事を自分から聞いてしまった事を早くも後悔し始めている様子だ。

気を取り直して、彼の手の上に手を重ねる。

「違うの、少し……動転してしまって。まだわからないけれど……伝えたくなかったわけじゃないのよ? もし違っていたらと思ったら、もう少し後でもって思っただけなの」

そう告げると彼の漆黒の瞳が揺れて、次の瞬間大きな手に引き寄せられて彼の腕に包み込まれた。

「もし、本当にそうなら、これほど嬉しい事は無い」

ぎゅうっと抱きしめられて、耳元で彼が甘く歓喜の言葉を紡ぐ。

まだ分からない、違うかもしれないと、言いかけて口を噤む。
彼がこれほどまでに子どもを望んでくれていたのが嬉しくて、幸せで、今はこのまま、温かな気持ちで抱き合っていたかった。

それなのに、彼は呆気なく身体を離すと、少し緊張した面持ちで私を見下ろすと。

「愛してるよティアナ。出会った時から」
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