その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

117新たな恋 【ラッセル視点】


♦︎♦︎
「旦那様、実は奥様の侍女からくれぐれも頼みたいと言われている事がありまして……。余程のことがなければ口外するなと言われているのですが……」

そうダルトンが耳打ちをしてきたのは、ティアナの姿を探して劇場を出たタイミングだった。
今はそんな事より、ティアナの安全が最優先だと焦りつつも、長い間信頼を置いているダルトンがこのタイミングで話を持ち出してくることに引っかかりを覚えて、無言で彼に視線を送る。

「まだ、時期ではないそうですが、もしかすると奥様が懐妊されているかもしれないとのことです。無理をさせないよう目を付けて置いて欲しいと言われました……」

静かに告げられた侍従の言葉に俺は息を飲んだ。

そんな大切な身体で……

喜びよりも、彼女の身を案じ一層焦燥感が強くなった。
万が一リドックにどこかに隠されてしまったら……フラッシュバックを起こして体調に障りが出たら……そう考えただけで息が詰まった。


そうして見つけた彼女は、足に怪我をしたのみで、無事に手元に戻って来た。
しばらくは足の怪我を直すため、安静に過ごす事にはなっているものの、やはり妊娠の可能性があるのであれば、彼女の周囲には手厚く人員を割きたい。
こちらの独断で手配をしてもいいのだが、敏い彼女ならばどこかで気づいてしまいかねない。

そうであるなら、直接きちんと彼女に聞いた方がいいだろうと思ったのだが、思いの外彼女を狼狽えさせてしまった。
それでも彼女のお腹に新たな命が宿っているかもしれない事は事実だったようで、ようやくそこで純粋に喜びが沸き上がってくる。
喜びをそのままに彼女を抱きしめると、彼女も答えるように抱き返す手に力が込められた。

そんな彼女の温もりと香りを抱いていたら、考えるまでもなく自然と「愛している」という言葉がまろび出た。

彼女の驚きに見開かれた瞳が俺を捕らえている。

本当ならば今夜食事の時にきちんと伝えようとしていた言葉だが、彼女が愛おしすぎて、考えもなくつい出てきてしまった言葉だった。

「突然すまない……でも、もうこの気持ちを抑えられそうになくて」

あれほど色々考えたのに結局何の考えもなく告げてしまった自分に、自分で呆れながら彼女の髪を撫でると。彼女の瞳が大きく揺れた。
そしてその瞳からポロリと涙が落ちて……

「っ、私も……あなたを愛してる」

夢のような返答が帰ってきたのだった。
思わず彼女の身体を引き寄せて口づける。

ようやく、長年恋焦がれた彼女と本当の意味で繋がる事ができたのだ。

今迄に経験した事がないような喜びと、愛しさと、幸福感が沸き上がり、彼女の細い身体に負担をかけないように加減をするのに苦労する。
 
彼女の身体を持ち上げて膝に座らせると、彼女の腕が首に回されて、至近距離で見詰め合う。

「やっぱり、あの時……私とリドックの話、聞いていたの?」

拗ねたように唇を尖らせる彼女の言葉に首を傾ける。

「何か、話していたのか?」

実際彼女達のいる店に入ってから2階に駆け上がり、彼等の姿を見つけるまでの時間は俺の体感ではわずか3秒ほどのことで……彼女達がどのようなやり取りをしていたかまで把握する余裕はなかったのだが……

そんな俺の様子をみたティアナは、一瞬しまった! と言うような顔をして視線を外す。

「何をあいつに話していたんだ?」

「ん、聞いてなかったらいいの……」

問い詰めれば、誤魔化すようにそっぽを向いて、逃げようとするので、その腰をしっかりつかんでベッドに戻すと、両手を捕らえて彼女に覆いかぶさる。

「君と、アイツしか知らないなんてすごく癪だから、話してもらおうか? 大丈夫、何を聞いても俺は今幸せな気分になれる自信があるよ?」

不敵に笑って、そう告げると、組み敷いた彼女がいやいやと首を振る。

「っ、そんな恥ずかしいこと……言えない~」

そう言って、顔を朱に染めて瞳を潤ませた横顔は、破壊的な可愛らしさで……
また新たに彼女に恋をした気分になって

我慢ができなくなった。
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