その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
127 恋の始まり
「珍しいのね?」
寝支度を整えて、寝室に向かうと、先に部屋に入っていた彼がソファに腰掛けて、グラスを傾けていた。
私の妊娠がわかってからと言うもの寝る前に飲んでいたお酒をハーブティーに変えていた彼が、今日は珍しくお酒を手にしているのだ。
意外に思って問うと、彼は軽くグラスを傾けて肩をすくめた。
「すまない。少し落ち着きたくて」
そう言って私の手を取ると、丁寧にソファに誘う。
テーブルにはすでに私の分のハーブティーが用意されて、湯気を立てている。
「簡単に防げると確信はあっても、君とお腹の子供に刃物を向けられた事に神経が尖ってしまって……」
私の腰を引き寄せて、頭に頬を寄せた彼がゆっくりと息を吸って吐く。
「怪我もなくてよかった」
「あなたが守ってくれたでしょう?」
心底ホッとしたようにつぶやいた言葉に努めて明るく返して手を握る。
あの場で私は当事者であるはずなのに、一切蚊帳の外だった。それは一重に彼が私の前に立ちはだかって遮断してくれたからである。
シャルロット夫人の怒りに満ち狂気の混じった悲鳴はいまだに私の脳裏に残っているものの、肝心の刃物を向けてられて向かってこられるというショッキングな光景や彼女の表情を目にすることはなかった。
恐らくその光景を目にしていたのであれば、今頃これほどまでの平常心を保っていられたかどうかは分からない。
それも全て、私とお腹の子どもへの影響を考えた彼の対応だったのだと、こうして帰宅してみて一息つけば理解ができた。
きゅうと手を握ると、それに応えるように彼も力強く握り返してくれた。
「もし、あの日、あの庭で毒づいている君に出会わなかったら、俺は今頃リドックと同じだったのかもしれないなぁと、最近思う事があるんだ」
しばらく二人で身を寄せ合っていると、彼がぽつりと呟いた。
「っ!」
あの日のあの庭が指すものと言えば、私と彼が初めてまともに会話を交わした夜会のことだとすぐに合点は行くけれど。
「っ、あの晩のことは……忘れてちょうだい。今思い返しても本当に恥ずかしい所を見られたと思っているの……」
あの晩の自分は随分と虫の居所が悪くて、かなり口汚い言葉を呟いた気がする……その上、彼がグランドリーの天敵だからと言って、かなり突っかかるような態度を取ってしまったような気がする。
今思うと、よく彼はあんな私を見て結婚相手にしようなんて思ってくれたものだ。
恥ずかしくなって引き寄せたカップの中で揺れるハーブティーを眺めるふりをして俯けば、彼がククッと喉を震わせた。
「確かに、あの時の君は威勢が良くて意地っ張りで、とても可愛かったなぁ。いつも大勢に囲まれてニコニコしている姿とは全然違って、そんな姿が見られてすごく嬉しかった」
「お願い、忘れて頂戴」
あの時の事を思い出したのだろう。楽しそうに笑う彼に、私は更に身を縮めて、抗議の意味を込めてねめつける。そんな私に彼は「とんでもない!」と笑って、いたずらのような口づけを一つ落とす。
「忘れられるわけないよ。だってすごく嬉しかったんだ。あの時まで、俺は君が心から婚約者を愛しているものだと勘違いをしていたんだ。それが違うって分かったあの晩が、俺にとっては全ての始まりなんだ」
「どう、いうこと?」
彼の言っている意味がよく分からなかった。
確かにあの晩の出来事で、私がグランドリーに対して気持ちがない事は伝わっただろうけれど、彼の口ぶりでは、まるで……
私の問いかけに彼は、少し恥ずかしそうに笑う。
「初めて会った時からって言っただろう?」
「っ!初めてって、あの晩じゃぁ……」
それ以外に、彼と会話をした記憶が私にはない。
狭い王都の社交界に居れば、互いにその存在くらいは把握してはいただろうけれど……
私の問いに彼は首を振る。
「実は、君が社交界デビューした日……本当に初めて君を見たあの時に、俺は君に恋したんだ」
寝支度を整えて、寝室に向かうと、先に部屋に入っていた彼がソファに腰掛けて、グラスを傾けていた。
私の妊娠がわかってからと言うもの寝る前に飲んでいたお酒をハーブティーに変えていた彼が、今日は珍しくお酒を手にしているのだ。
意外に思って問うと、彼は軽くグラスを傾けて肩をすくめた。
「すまない。少し落ち着きたくて」
そう言って私の手を取ると、丁寧にソファに誘う。
テーブルにはすでに私の分のハーブティーが用意されて、湯気を立てている。
「簡単に防げると確信はあっても、君とお腹の子供に刃物を向けられた事に神経が尖ってしまって……」
私の腰を引き寄せて、頭に頬を寄せた彼がゆっくりと息を吸って吐く。
「怪我もなくてよかった」
「あなたが守ってくれたでしょう?」
心底ホッとしたようにつぶやいた言葉に努めて明るく返して手を握る。
あの場で私は当事者であるはずなのに、一切蚊帳の外だった。それは一重に彼が私の前に立ちはだかって遮断してくれたからである。
シャルロット夫人の怒りに満ち狂気の混じった悲鳴はいまだに私の脳裏に残っているものの、肝心の刃物を向けてられて向かってこられるというショッキングな光景や彼女の表情を目にすることはなかった。
恐らくその光景を目にしていたのであれば、今頃これほどまでの平常心を保っていられたかどうかは分からない。
それも全て、私とお腹の子どもへの影響を考えた彼の対応だったのだと、こうして帰宅してみて一息つけば理解ができた。
きゅうと手を握ると、それに応えるように彼も力強く握り返してくれた。
「もし、あの日、あの庭で毒づいている君に出会わなかったら、俺は今頃リドックと同じだったのかもしれないなぁと、最近思う事があるんだ」
しばらく二人で身を寄せ合っていると、彼がぽつりと呟いた。
「っ!」
あの日のあの庭が指すものと言えば、私と彼が初めてまともに会話を交わした夜会のことだとすぐに合点は行くけれど。
「っ、あの晩のことは……忘れてちょうだい。今思い返しても本当に恥ずかしい所を見られたと思っているの……」
あの晩の自分は随分と虫の居所が悪くて、かなり口汚い言葉を呟いた気がする……その上、彼がグランドリーの天敵だからと言って、かなり突っかかるような態度を取ってしまったような気がする。
今思うと、よく彼はあんな私を見て結婚相手にしようなんて思ってくれたものだ。
恥ずかしくなって引き寄せたカップの中で揺れるハーブティーを眺めるふりをして俯けば、彼がククッと喉を震わせた。
「確かに、あの時の君は威勢が良くて意地っ張りで、とても可愛かったなぁ。いつも大勢に囲まれてニコニコしている姿とは全然違って、そんな姿が見られてすごく嬉しかった」
「お願い、忘れて頂戴」
あの時の事を思い出したのだろう。楽しそうに笑う彼に、私は更に身を縮めて、抗議の意味を込めてねめつける。そんな私に彼は「とんでもない!」と笑って、いたずらのような口づけを一つ落とす。
「忘れられるわけないよ。だってすごく嬉しかったんだ。あの時まで、俺は君が心から婚約者を愛しているものだと勘違いをしていたんだ。それが違うって分かったあの晩が、俺にとっては全ての始まりなんだ」
「どう、いうこと?」
彼の言っている意味がよく分からなかった。
確かにあの晩の出来事で、私がグランドリーに対して気持ちがない事は伝わっただろうけれど、彼の口ぶりでは、まるで……
私の問いかけに彼は、少し恥ずかしそうに笑う。
「初めて会った時からって言っただろう?」
「っ!初めてって、あの晩じゃぁ……」
それ以外に、彼と会話をした記憶が私にはない。
狭い王都の社交界に居れば、互いにその存在くらいは把握してはいただろうけれど……
私の問いに彼は首を振る。
「実は、君が社交界デビューした日……本当に初めて君を見たあの時に、俺は君に恋したんだ」