その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
19 夫の思惑2 【ラッセル視点】
夜会の会場に現れた彼女を盗み見れば、手首には包帯が巻かれていた。
咄嗟に目を見開くと、それを待っていたかのように、彼女の隣の婚約者と目が合った。
いつもは、ニコニコと人当たりの良い、貴公子然としている奴が、めずらしくその顔を忘れた様子で、敵意を剥き出しにこちらを睨みつけてきた。
そして、彼女を引き寄せて自分の身体の内側に隠すそぶりを見せるのだ。
こいつは俺のものだ……とでも言うように。
あの包帯は、まさか……
ザワリと胸が騒いだ。
政略結婚だと侮っていたのだ。
思った以上に奴が彼女に執着していて、彼女を危険に晒しているらしい事に気がついた。
なんとしても今日の内に彼女から言質を取って、彼女の身の安全を図らなければ……もしかしたらこのまま彼女は……彼女の家は押し切られてしまうかもしれない。
そうなればもう、手出しができなくなる。
焦った俺は、冷静さを欠いていた。
彼女が奴と離れたのを狙って声をかけた。しかし怯えたように拒絶されて、逃げられてしまう。
公の場での彼女らしくないその対応に、彼女が婚約者に暴力を振るわれたのだと確信した。
カッと腹の奥が熱くなって、今すぐにあの男を捕まえて、問いただしてやりたかった。しかしそれでは、彼女も大衆の注目と同情の的にさらされてしまう。
唇を噛んで、俺は期を伺っていた。
彼女が帰宅するタイミングを狙って何とか接触できないだろうかと、その時を待った。
しかし、帰宅のタイミングになって、彼女が婚約者の家の馬車に連れ込まれた。
まさかこのまま彼女を自宅に連れていくのではないかと嫌な予感が湧いて、胸がヒリヒリと痛みを覚える。
夜陰に紛れて彼らの馬車を付けることにした。
幸いにも帰宅する賓客達の馬車が込み合う時間で、さほど怪しまれることもない。
会場であった公爵邸を離れて、しばらく進むと、街の中心地に出る。ここは大きな道が幾筋か通っており、網目状になっている。
御者の横に座り、夜陰に目を凝らして中の様子が少しでも分からないだろうかと思っていた矢先だった。馬車から、ドレスを着た女性の人影が飛び出してきた。
その姿は一度、地面に膝をついたものの、次の瞬間にはドレスをたくし上げて、必至に逃げるように細い路地に姿を消した。
急いで一つ前の道を曲がるよう御者に指示をだし、馬車の行き先を変えさせると、一つ北側の通りへ向かう。
案の定彼女は逃げ惑って、逆方向へ行こうとしたあまり、反対側の通りに出てきた。
その姿を確認して、客車に回って彼女のそばに馬車を寄せて手を伸ばせば、彼女は迷いなくしがみついてきた。
その細くて、柔らかい少し震える身体を抱きしめて、もう絶対に彼女をこの手の届かない場所にはやるものかと思った。
できる限り馬車を急いで走らせて自宅に戻る。
途中で彼女は緊張が解けたのだろうか、くたりと気を失った。
婚約者と馬車の中でどんなことがあったのだろうか、頬を腫らし、腕にも手頸にも痣があり、髪をかき上げてみれば首を絞められたような皮下出血の痕もある。
こんなことが許されるものか。
急いで用意させた客室に彼女を運びながら、その身体を抱きしめた。
咄嗟に目を見開くと、それを待っていたかのように、彼女の隣の婚約者と目が合った。
いつもは、ニコニコと人当たりの良い、貴公子然としている奴が、めずらしくその顔を忘れた様子で、敵意を剥き出しにこちらを睨みつけてきた。
そして、彼女を引き寄せて自分の身体の内側に隠すそぶりを見せるのだ。
こいつは俺のものだ……とでも言うように。
あの包帯は、まさか……
ザワリと胸が騒いだ。
政略結婚だと侮っていたのだ。
思った以上に奴が彼女に執着していて、彼女を危険に晒しているらしい事に気がついた。
なんとしても今日の内に彼女から言質を取って、彼女の身の安全を図らなければ……もしかしたらこのまま彼女は……彼女の家は押し切られてしまうかもしれない。
そうなればもう、手出しができなくなる。
焦った俺は、冷静さを欠いていた。
彼女が奴と離れたのを狙って声をかけた。しかし怯えたように拒絶されて、逃げられてしまう。
公の場での彼女らしくないその対応に、彼女が婚約者に暴力を振るわれたのだと確信した。
カッと腹の奥が熱くなって、今すぐにあの男を捕まえて、問いただしてやりたかった。しかしそれでは、彼女も大衆の注目と同情の的にさらされてしまう。
唇を噛んで、俺は期を伺っていた。
彼女が帰宅するタイミングを狙って何とか接触できないだろうかと、その時を待った。
しかし、帰宅のタイミングになって、彼女が婚約者の家の馬車に連れ込まれた。
まさかこのまま彼女を自宅に連れていくのではないかと嫌な予感が湧いて、胸がヒリヒリと痛みを覚える。
夜陰に紛れて彼らの馬車を付けることにした。
幸いにも帰宅する賓客達の馬車が込み合う時間で、さほど怪しまれることもない。
会場であった公爵邸を離れて、しばらく進むと、街の中心地に出る。ここは大きな道が幾筋か通っており、網目状になっている。
御者の横に座り、夜陰に目を凝らして中の様子が少しでも分からないだろうかと思っていた矢先だった。馬車から、ドレスを着た女性の人影が飛び出してきた。
その姿は一度、地面に膝をついたものの、次の瞬間にはドレスをたくし上げて、必至に逃げるように細い路地に姿を消した。
急いで一つ前の道を曲がるよう御者に指示をだし、馬車の行き先を変えさせると、一つ北側の通りへ向かう。
案の定彼女は逃げ惑って、逆方向へ行こうとしたあまり、反対側の通りに出てきた。
その姿を確認して、客車に回って彼女のそばに馬車を寄せて手を伸ばせば、彼女は迷いなくしがみついてきた。
その細くて、柔らかい少し震える身体を抱きしめて、もう絶対に彼女をこの手の届かない場所にはやるものかと思った。
できる限り馬車を急いで走らせて自宅に戻る。
途中で彼女は緊張が解けたのだろうか、くたりと気を失った。
婚約者と馬車の中でどんなことがあったのだろうか、頬を腫らし、腕にも手頸にも痣があり、髪をかき上げてみれば首を絞められたような皮下出血の痕もある。
こんなことが許されるものか。
急いで用意させた客室に彼女を運びながら、その身体を抱きしめた。