その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
20 夫の思惑3 【ラッセル視点】
彼女を家の者に託して、彼女の実家に馬を走らせる。幸いにも彼女の家とはさほど距離はなく、とばせばすぐについた。
どうやら彼女の実家には、先に婚約者の家の者から、気分が悪くなったので泊まるという連絡が来ていたらしい。彼女の現在の状況を聞いた父親は青ざめて母はその場にへたり込んだ。
「このような事は日常的なのですか?」
わずかに怒気を含んで父親に問えば、彼は大慌てで首を振った。
「そんなことは、今まで一度も……しかし本当ですか?」
むしろ信じられないというような様子に、俺は眉を寄せる。手首の痣すら気づいていなかったというのだろうか?あれは昨日今日でできたものではないように見えたのだが。
不審に思っていると突如彼らの後ろに控えていたメイドが声を上げて泣き出した。
マルガーナと呼ばれたそのメイドは、ティアナ付きの者らしく、彼女はその痣の存在と、それが婚約者によってつけられたものだと、涙ながらに証言した。
どうやらティアナ自身が誰にも言わないようにマルガーナに指示していたらしい。
マルガーナの告白を聞いた両親は、ようやく俺の言う事をきちんと理解できたようだった。
丁度そこに、「婚約者のグランドリー様が尋ねて参りましたが、どういたしましょうか?」と困り顔の執事がやってきた。
その知らせに、両親の顔は蒼白になる。どうしたらいいのだと助けを求めるように視線をよこされて、俺はゆっくりと父親に言い聞かせた。
「彼女は我が家で保護しています。恐らく馬車から逃げ出した彼女が見つからなくて途方に暮れて、帰宅しているか確認に来たのでしょう。帰宅しているが、もう休んだとお伝えください」
父親はゆっくりと頷いて、少しばかり緊張した面持ちで部屋を出ていった。
そうして、さほど時間をかけずに戻ってきた。
「ちょっとした喧嘩から、ティアナが怒り出して馬車から飛び出したと……怪我はないかと言われたが」
困惑したように奴から聞いた話をし始めた父親の言葉に、俺は苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「白々しい! 馬車から飛び出して、首に絞められた跡など着くものか!」
「首⁉︎」
母親が自身の首に手を添えて、悲鳴のような声を上げた。
「ではやはり、彼から暴力を振るわれたと言うのは本当なんですね?」
念を押すように、聞かれて俺はゆっくりと頷く。
「お嬢さんは我が家で手当てを受けさせて保護しています。明日様子を見にいらしてください、傷の様子を見れば状況は分かるはずです」
「わかりました。娘をよろしくお願いいたします。ロブダート卿」
「お助けいただきありがとうございます」
彼女の両親に口々に礼を言われ、俺はすぐに彼女の家を後にした。
自宅に戻れば彼女の手当が終わっていて、目を覚ました彼女は健気にも気丈に振舞おうとしてはいたものの、やはり随分と怖い思いをしたせいか、震えが止まらない様子だった。
その手を取って、眠るまでついていると伝えると、彼女はどこか安心したように、薬に誘われるように眠りに落ちていった。
眠った彼女をしばらく見つめ、部屋を出ると、俺はそのまま自室へ向かう。
すぐに執事がやってきて、俺の様子を覗き込んでにやりと笑う。
彼は年も近く、幼い頃からこの家に仕えているから、気安い仲だ。
「それで? どうなさるおつもりですか?」
「彼女と結婚する」
さらりと返答する。どうせ答えなどこの男には分かっていたはずだ。
「それで、段取りはいかように?」
驚いた様子もなく、ともすれば楽しそうなその声音に、ちらりと視線を送って、俺も薄く笑う。
「王宮に連絡を。王太子殿下のお力と……王女殿下のお力を借りようか……朝いちで王宮に上がると伝えてくれ。殿下に借りを返していただこうと思いますと、でも言っておいてくれ」
借りなどというものは、本当なら、臣下の立場ではあってないようなものだ。しかし何かにつけて殿下はそれを気にしているのだから、利用させてもらう手はない。
どうやら彼女の実家には、先に婚約者の家の者から、気分が悪くなったので泊まるという連絡が来ていたらしい。彼女の現在の状況を聞いた父親は青ざめて母はその場にへたり込んだ。
「このような事は日常的なのですか?」
わずかに怒気を含んで父親に問えば、彼は大慌てで首を振った。
「そんなことは、今まで一度も……しかし本当ですか?」
むしろ信じられないというような様子に、俺は眉を寄せる。手首の痣すら気づいていなかったというのだろうか?あれは昨日今日でできたものではないように見えたのだが。
不審に思っていると突如彼らの後ろに控えていたメイドが声を上げて泣き出した。
マルガーナと呼ばれたそのメイドは、ティアナ付きの者らしく、彼女はその痣の存在と、それが婚約者によってつけられたものだと、涙ながらに証言した。
どうやらティアナ自身が誰にも言わないようにマルガーナに指示していたらしい。
マルガーナの告白を聞いた両親は、ようやく俺の言う事をきちんと理解できたようだった。
丁度そこに、「婚約者のグランドリー様が尋ねて参りましたが、どういたしましょうか?」と困り顔の執事がやってきた。
その知らせに、両親の顔は蒼白になる。どうしたらいいのだと助けを求めるように視線をよこされて、俺はゆっくりと父親に言い聞かせた。
「彼女は我が家で保護しています。恐らく馬車から逃げ出した彼女が見つからなくて途方に暮れて、帰宅しているか確認に来たのでしょう。帰宅しているが、もう休んだとお伝えください」
父親はゆっくりと頷いて、少しばかり緊張した面持ちで部屋を出ていった。
そうして、さほど時間をかけずに戻ってきた。
「ちょっとした喧嘩から、ティアナが怒り出して馬車から飛び出したと……怪我はないかと言われたが」
困惑したように奴から聞いた話をし始めた父親の言葉に、俺は苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「白々しい! 馬車から飛び出して、首に絞められた跡など着くものか!」
「首⁉︎」
母親が自身の首に手を添えて、悲鳴のような声を上げた。
「ではやはり、彼から暴力を振るわれたと言うのは本当なんですね?」
念を押すように、聞かれて俺はゆっくりと頷く。
「お嬢さんは我が家で手当てを受けさせて保護しています。明日様子を見にいらしてください、傷の様子を見れば状況は分かるはずです」
「わかりました。娘をよろしくお願いいたします。ロブダート卿」
「お助けいただきありがとうございます」
彼女の両親に口々に礼を言われ、俺はすぐに彼女の家を後にした。
自宅に戻れば彼女の手当が終わっていて、目を覚ました彼女は健気にも気丈に振舞おうとしてはいたものの、やはり随分と怖い思いをしたせいか、震えが止まらない様子だった。
その手を取って、眠るまでついていると伝えると、彼女はどこか安心したように、薬に誘われるように眠りに落ちていった。
眠った彼女をしばらく見つめ、部屋を出ると、俺はそのまま自室へ向かう。
すぐに執事がやってきて、俺の様子を覗き込んでにやりと笑う。
彼は年も近く、幼い頃からこの家に仕えているから、気安い仲だ。
「それで? どうなさるおつもりですか?」
「彼女と結婚する」
さらりと返答する。どうせ答えなどこの男には分かっていたはずだ。
「それで、段取りはいかように?」
驚いた様子もなく、ともすれば楽しそうなその声音に、ちらりと視線を送って、俺も薄く笑う。
「王宮に連絡を。王太子殿下のお力と……王女殿下のお力を借りようか……朝いちで王宮に上がると伝えてくれ。殿下に借りを返していただこうと思いますと、でも言っておいてくれ」
借りなどというものは、本当なら、臣下の立場ではあってないようなものだ。しかし何かにつけて殿下はそれを気にしているのだから、利用させてもらう手はない。