その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
43 再会
夫が到着したのはその4日後だった。
それまでに終えておくべき視察はアドリーヌ嬢の采配のおかげで、随分と余裕を持って終えることができ、なんならいくつか訪問先を追加して回る事までできた。
視察を終えて邸に戻ると、そこに見慣れた馬車の姿を見つけて私の胸は煩く騒いだ。
「あら、ラース兄様もう御到着になったのね!」
同じようにアドリーヌもそれに気がついたらしく、声を上げた。
彼女はいつも私を邸に送り届けてから、そのまま馬車で帰宅して行くのだが、どうやら今日は降りて夫の顔を見て行くつもりらしい。
彼女を見て、夫はどんな顔をするのだろう。
見たことのないような表情で、彼女を見て甘く微笑んだらどうしよう。
そんな醜い懸念が頭の中を支配する。
2人に会って欲しくない。でもそれを口にすることは私には出来ない。
馬車の扉が開いて、重い気分のまま外に出る。
「っ!」
「やぁ、お疲れ様ティアナ」
馬車の扉の横、すぐに夫の顔を見とめて咄嗟に息をのむ。
どうやら彼は出迎えに出てきてくれていたらしい。
予想していなかった私は、されるがままに手を取られ、馬車から降りると、すぐに彼の温かな手が肩をつつんだ。
「アドリーヌもお疲れ様」
続いて彼はまだ馬車に乗ったままのアドリーヌ嬢を見上げて、声をかける。
「お久しぶりです兄様。ふふっ少し相談ついでにお顔を見ていこうかと思ったけれど、明日の方が良さそうね」
「あぁ明日朝食を用意しておくから、情報交換がてら一緒にどうだい?」
「光栄だわ。じゃあ明日また伺うわね」
私を手の中に収めたまま、2人の会話はポンポンとテンポよく進んでいく。
息がぴったりで、お互いの意思疎通がしっかり出来ている。
それだけで彼のビジネスパートナーとして信頼関係が築けているのだ。
私には、まだこんな軽快な会話を彼とできる気がしない。
沈んだ気持ちでいると、ガラガラと音を立てて馬車が移動して行く。
どうやらアドリーヌは彼の姿をひと目見て満足したらしい。
そのまま下車することなく、にこやかに手を振って馬車に揺られて帰路についていた。
「中に入ろう、日が落ちたし冷えてしまうよ」
馬車の姿が見えなくなると、すぐさま夫は私の肩を抱いたまま邸に誘う。
されるがままに彼に促されて、邸に入るとエントランスの正面階段を登り、自室に入る。
部屋にはメイド達の姿も、食事の前のお茶の用意も無かった。
主人の到着で彼女達もバタバタしているのだろうか?
そう理解して、部屋の奥に入ろうと足を踏み出しかけて、それは叶わなかった。
「っ、旦那様?」
私を後ろから羽交い締めにした太くて熱い腕は、私を逃さないように力強く抱きしめてきて、久しぶりに嗅ぐ彼の香水の香りが鼻をくすぐった。
「旦那様じゃなくて、ラース」
「っーーーーー!」
耳元で甘えるような囁かれて。心臓と肩がビクンと跳ね上がる。
そんな私の反応に彼がクスリと笑って、そのまま首筋を彼の唇が這う。
これは……
彼が求めるその先に気づいてしまう。
「ティアナ」
熱い吐息混じりの声が私の耳をくすぐって、さらに私の身体を熱くさせる。
いろいろと、聞かねばならない事が沢山ある。
特にアドリーヌ嬢の事については、彼の口からきちんと話を聞かねばならないのに。
「っ、あっ!」
降りてきた彼の大きな手が、襟元から侵入して下着の中をもぐりこみ、胸の膨らみを包み込み、もう片方の手が私の顎を掴んで上を向かせると、覆い被さるように熱い口付けが私を捉えた。