その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
47 静かな湖畔
翌日、朝から嬉しそうに準備を始める彼に連れられて、湖畔に到着した。
魚の姿も見られるほどに透き通った湖の側に建つこじんまりとした小さなクリーム色の建物は、ロブダート家の別荘だった。
わざと庶民的な作りにして、代々の当主が隠れ家として利用していたらしい。
「素敵ね」
室内から望む湖畔の景色に圧倒されながら、感嘆の声をあげると、「気に入ってくれて良かったよ」と彼も嬉しそうに笑った。
「ボートにでも乗る? 子供の頃よくアドリーヌと彼女の兄と乗ったんだ! こう見えても漕ぐのは上手いよ!」
そう言って、建物の側に作られている桟橋に括られたボートを指す彼に頷きながら、彼女もここへ来た事があるのだと嫉妬する気持ちを飲み込んだ。
ボートに乗り込み、彼がオールを漕ぎ出すと、確かに彼は船の扱いに慣れていて、あっという間に陸が遠くなった。
船の上から下を覗くと、時折小さな魚の群れが見える。身体を翻した時にきらりと光る輝きに目を奪われていると、ゆっくりとボートが進みを止める。
どうしたのだろうか? と水面から顔を上げて彼を見れば、真剣な漆黒の瞳がしっかりとこちらを見据えていて……あぁ、その時が来たのだと、本能が理解した。
何と切り出されるのだろう。そう覚悟しながら彼を見返すと……
「そろそろ、話してはくれないか?」
なぜかとても辛そうに眉を寄せて問われて、私は思わず首を傾ける。
「何を?」
むしろ話すのはそちらなのではないのだろうか? そのために誰にも聞かれない場所を選んだのではないのか?
私の返答が意外だったのが、彼は本当に驚いたように目を丸くして
「君の様子がおかしい理由だよ」
と言うのだ。
理由もなにも……心当たりはあるだろうに、私の口から言わせるつもりなのだろうか? と察しの悪い彼に少しだけ腹が立った。
確かに体調を心配されてはいた、けれど結局彼はそこに何らかの理由がある事を察していたのだ、それなのに、そんな聞き方をするなんて狡くはないだろうか?
「分かって、いたの?」
少しばかり棘を含んだ言葉になったのは自分でもよく分かった。
「そりゃあ、ね」
それに対して彼の返答は、どこか困っているようで。
そうしたいのは私だわ! と思った以上に誠実でない彼に対して失望すら感じた。
「夫の決めた事だから、私は従うつもりよ。もっとも、こうした事を想定していたのなら、最初の契約の時に説明しておいては欲しかったけど!」
飛び出した言葉は、すごく辛辣できつい言い方になってしまった。でもそうしていないと、今にも泣き出しそうだった。
それなのに、対する彼は何故かとても困惑している様子で。
「俺の決めた事? 契約の時に説明って……何のことだ?」
と、問うて来る。
「っ……アドリーヌ嬢の事!」
ここまで言えばわかるだろうか? これ以上説明させないでと願う気持ちでそれだけを絞り出したのに。
「アドリーヌ? 彼女と何かあったのか?」と彼は眉を寄せるだけで。
「妾にする予定なのでしょ? それで、こちらを彼女にまかせるって」
焦れったくなって、一気に言ってしまった。涙が込み上げそうになるのを必死で、抑えて唇を噛んだ。
目の前の、彼の瞳が大きく見開かれて、そして何かを考えるように視線を彷徨わせると。
「一体どこでそれを聞いたんだ!?」
困惑したように問い返された。
魚の姿も見られるほどに透き通った湖の側に建つこじんまりとした小さなクリーム色の建物は、ロブダート家の別荘だった。
わざと庶民的な作りにして、代々の当主が隠れ家として利用していたらしい。
「素敵ね」
室内から望む湖畔の景色に圧倒されながら、感嘆の声をあげると、「気に入ってくれて良かったよ」と彼も嬉しそうに笑った。
「ボートにでも乗る? 子供の頃よくアドリーヌと彼女の兄と乗ったんだ! こう見えても漕ぐのは上手いよ!」
そう言って、建物の側に作られている桟橋に括られたボートを指す彼に頷きながら、彼女もここへ来た事があるのだと嫉妬する気持ちを飲み込んだ。
ボートに乗り込み、彼がオールを漕ぎ出すと、確かに彼は船の扱いに慣れていて、あっという間に陸が遠くなった。
船の上から下を覗くと、時折小さな魚の群れが見える。身体を翻した時にきらりと光る輝きに目を奪われていると、ゆっくりとボートが進みを止める。
どうしたのだろうか? と水面から顔を上げて彼を見れば、真剣な漆黒の瞳がしっかりとこちらを見据えていて……あぁ、その時が来たのだと、本能が理解した。
何と切り出されるのだろう。そう覚悟しながら彼を見返すと……
「そろそろ、話してはくれないか?」
なぜかとても辛そうに眉を寄せて問われて、私は思わず首を傾ける。
「何を?」
むしろ話すのはそちらなのではないのだろうか? そのために誰にも聞かれない場所を選んだのではないのか?
私の返答が意外だったのが、彼は本当に驚いたように目を丸くして
「君の様子がおかしい理由だよ」
と言うのだ。
理由もなにも……心当たりはあるだろうに、私の口から言わせるつもりなのだろうか? と察しの悪い彼に少しだけ腹が立った。
確かに体調を心配されてはいた、けれど結局彼はそこに何らかの理由がある事を察していたのだ、それなのに、そんな聞き方をするなんて狡くはないだろうか?
「分かって、いたの?」
少しばかり棘を含んだ言葉になったのは自分でもよく分かった。
「そりゃあ、ね」
それに対して彼の返答は、どこか困っているようで。
そうしたいのは私だわ! と思った以上に誠実でない彼に対して失望すら感じた。
「夫の決めた事だから、私は従うつもりよ。もっとも、こうした事を想定していたのなら、最初の契約の時に説明しておいては欲しかったけど!」
飛び出した言葉は、すごく辛辣できつい言い方になってしまった。でもそうしていないと、今にも泣き出しそうだった。
それなのに、対する彼は何故かとても困惑している様子で。
「俺の決めた事? 契約の時に説明って……何のことだ?」
と、問うて来る。
「っ……アドリーヌ嬢の事!」
ここまで言えばわかるだろうか? これ以上説明させないでと願う気持ちでそれだけを絞り出したのに。
「アドリーヌ? 彼女と何かあったのか?」と彼は眉を寄せるだけで。
「妾にする予定なのでしょ? それで、こちらを彼女にまかせるって」
焦れったくなって、一気に言ってしまった。涙が込み上げそうになるのを必死で、抑えて唇を噛んだ。
目の前の、彼の瞳が大きく見開かれて、そして何かを考えるように視線を彷徨わせると。
「一体どこでそれを聞いたんだ!?」
困惑したように問い返された。