その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
50 彼女の気持ち【ラッセル視点】
♦︎♦︎
領地に到着して顔を合わせた時から、彼女の様子が少しおかしい事は引っかかっていた。
長旅と、連日の視察で疲れているのだろうか? そう思いながらも、会いたくて募った想いが暴走して、彼女を寝室に引っ張り込んで、その身体をむさぼってしまった。
彼女はそれにも応えてくれて、いつものようにこの時だけは愛称で俺の名を呼びながら身体を預けてくれた。
しかしその瞳と、頬には涙があった。
彼女が行為の最中に涙を見せたのは、初夜の時以来で、彼女の中で何かがある事はすぐに分かった。
だから「どうしたのか?」と聞いてみたものの、彼女は明らかに無理をしている様子でそれを耐えるように唇を引き結んだ。
彼女がこうした顔をする事は度々あって、その度に頼り切られない自分はまだ彼女の中では身も心も委ねられるような存在になり切れていないのだと、不甲斐なく思う。
それなのに、その日は彼女から「寂しかった、もっと抱いて欲しい」と強請られて、それだけで彼女も少しでも同じ気持ちでいてくれたのではないかと、うれしかった。
就寝前に何かあったのかと聞いてみたものの、彼女は少し弱気になっていたのだと言って、しかしまだ何かに耐えるように涙を流した。
また本心を隠した彼女。話して欲しいと食い下がろうかと思いながらも、彼女があまりに不安そうな顔をするから、納得したふりをして一緒に眠ろうと誘って抱きしめた。
そして、翌日も彼女はどこか様子がおかしくて、ぼんやりしたり、時々泣きそうなのを堪えるように目を伏せたり、唇を強く引き結ぶことがあった。
このままではいけないとそう思って、その夜も探りを入れてみるけれど、そうすると余計に彼女は何かを思い出したように辛そうな顔になってしまうから、深く追求するのをやめた。
その時の俺の中ではすでに翌日のプランが練られていて、彼女をボートに誘い出し、そこで改めて聞いてみようと思っていたのだ。
そしてその結果。その機会を作った事で彼女がとんでもない勘違いをしていたことがわかった。
早めにきちんと誤解が解けて良かった。もしこれを有耶無耶にしたまま王都に戻って話す機会を失っていたら、もしかしたら俺たちの関係は拗れていたかもしれない。
安堵すると共に、もう2度と妾なんて、そんなあり得ないことですれ違いたくはない。
「アドリーヌだけでなく、俺は君以外の妻も妾も恋人も持つつもりはない」
誓うように彼女の手に口付ける。
本当ならば、君を愛しすぎて他の女性など眼中にもないと言えたならいのに。「契約関係でそれは重い」と言われる事が怖くて言えない自分が情けない。
それでも、こうして彼女が自分が妾を持つ事に心を乱してくれていた事はとても嬉しいことで、もしかして彼女も同じ想いでいてくれているのではないかと、つい淡い期待をもってしまう。
「でも、少し嬉しかったな。まるでヤキモチを焼いてもらえたような感じでさ」
俺には珍しく、少し試すような言葉が出た。とても注意を払って冗談めいた言い方だったのだが、次の瞬間彼女が息を飲んで、慌てたように視線を逸らした。
まるで俺の言葉を肯定するようなその反応。うそだろう? あまりにも彼女の気持ちが欲しくて俺は都合のいい幻覚でもみているのではないかと、自分の目を疑った。
「ご……めんなさい」
しかし、伏せた彼女の髪から覗く可愛らしい耳がほんのり赤くなって行くのを目の当たりにして。
ごめんなさい⁉︎ ごめんなさいという事は、ヤキモチを妬いてくれたと……つまりは、そういう事なのだ。
喜びが胸の中を駆け巡る。彼女の中に自分への気持ちが育ってくれている。それが大きいのか小さいのかは分からないが、それでも妬いてくれるほどではあるらしい。
気がついたら、彼女の手を離してオールを漕いでいた。
にやけそうになる頬を一生懸命引き締めて。
多分今まで史上最速のオールさばきだったはずだ。
今すぐ彼女を抱きしめて、口付けたい。
もともと今日は2人でのんびりと話をしながら食事をして散歩をしたり、庭で湖を臨みながら昼寝をしたりするつもりだった。
雰囲気ができたらその先にそうしたむつみごとがあってもいいとは思っていたが、今無性に彼女に触れて、そしてこの彼女を愛おしいと思う気持ちをぶつけてしまいたかった。
ボートを降りるとすぐさま彼女の手を引いて、別荘に戻り一目散に寝室へ向かう。
戸惑い気味についてきた彼女も階段を登り切ったところで俺の向かう先に検討はついたらしい。こんな時間から何を考えているのだと嫌がられたら……不意にそんな不安も浮かんだが、有難い事に彼女は手を振り切る事なくついてきてくれた。
そして部屋に入れば、もう我慢は出来なかった。
唇を乱暴に重ねて、彼女を扉に縫いとめるように閉じ込めた。
領地に到着して顔を合わせた時から、彼女の様子が少しおかしい事は引っかかっていた。
長旅と、連日の視察で疲れているのだろうか? そう思いながらも、会いたくて募った想いが暴走して、彼女を寝室に引っ張り込んで、その身体をむさぼってしまった。
彼女はそれにも応えてくれて、いつものようにこの時だけは愛称で俺の名を呼びながら身体を預けてくれた。
しかしその瞳と、頬には涙があった。
彼女が行為の最中に涙を見せたのは、初夜の時以来で、彼女の中で何かがある事はすぐに分かった。
だから「どうしたのか?」と聞いてみたものの、彼女は明らかに無理をしている様子でそれを耐えるように唇を引き結んだ。
彼女がこうした顔をする事は度々あって、その度に頼り切られない自分はまだ彼女の中では身も心も委ねられるような存在になり切れていないのだと、不甲斐なく思う。
それなのに、その日は彼女から「寂しかった、もっと抱いて欲しい」と強請られて、それだけで彼女も少しでも同じ気持ちでいてくれたのではないかと、うれしかった。
就寝前に何かあったのかと聞いてみたものの、彼女は少し弱気になっていたのだと言って、しかしまだ何かに耐えるように涙を流した。
また本心を隠した彼女。話して欲しいと食い下がろうかと思いながらも、彼女があまりに不安そうな顔をするから、納得したふりをして一緒に眠ろうと誘って抱きしめた。
そして、翌日も彼女はどこか様子がおかしくて、ぼんやりしたり、時々泣きそうなのを堪えるように目を伏せたり、唇を強く引き結ぶことがあった。
このままではいけないとそう思って、その夜も探りを入れてみるけれど、そうすると余計に彼女は何かを思い出したように辛そうな顔になってしまうから、深く追求するのをやめた。
その時の俺の中ではすでに翌日のプランが練られていて、彼女をボートに誘い出し、そこで改めて聞いてみようと思っていたのだ。
そしてその結果。その機会を作った事で彼女がとんでもない勘違いをしていたことがわかった。
早めにきちんと誤解が解けて良かった。もしこれを有耶無耶にしたまま王都に戻って話す機会を失っていたら、もしかしたら俺たちの関係は拗れていたかもしれない。
安堵すると共に、もう2度と妾なんて、そんなあり得ないことですれ違いたくはない。
「アドリーヌだけでなく、俺は君以外の妻も妾も恋人も持つつもりはない」
誓うように彼女の手に口付ける。
本当ならば、君を愛しすぎて他の女性など眼中にもないと言えたならいのに。「契約関係でそれは重い」と言われる事が怖くて言えない自分が情けない。
それでも、こうして彼女が自分が妾を持つ事に心を乱してくれていた事はとても嬉しいことで、もしかして彼女も同じ想いでいてくれているのではないかと、つい淡い期待をもってしまう。
「でも、少し嬉しかったな。まるでヤキモチを焼いてもらえたような感じでさ」
俺には珍しく、少し試すような言葉が出た。とても注意を払って冗談めいた言い方だったのだが、次の瞬間彼女が息を飲んで、慌てたように視線を逸らした。
まるで俺の言葉を肯定するようなその反応。うそだろう? あまりにも彼女の気持ちが欲しくて俺は都合のいい幻覚でもみているのではないかと、自分の目を疑った。
「ご……めんなさい」
しかし、伏せた彼女の髪から覗く可愛らしい耳がほんのり赤くなって行くのを目の当たりにして。
ごめんなさい⁉︎ ごめんなさいという事は、ヤキモチを妬いてくれたと……つまりは、そういう事なのだ。
喜びが胸の中を駆け巡る。彼女の中に自分への気持ちが育ってくれている。それが大きいのか小さいのかは分からないが、それでも妬いてくれるほどではあるらしい。
気がついたら、彼女の手を離してオールを漕いでいた。
にやけそうになる頬を一生懸命引き締めて。
多分今まで史上最速のオールさばきだったはずだ。
今すぐ彼女を抱きしめて、口付けたい。
もともと今日は2人でのんびりと話をしながら食事をして散歩をしたり、庭で湖を臨みながら昼寝をしたりするつもりだった。
雰囲気ができたらその先にそうしたむつみごとがあってもいいとは思っていたが、今無性に彼女に触れて、そしてこの彼女を愛おしいと思う気持ちをぶつけてしまいたかった。
ボートを降りるとすぐさま彼女の手を引いて、別荘に戻り一目散に寝室へ向かう。
戸惑い気味についてきた彼女も階段を登り切ったところで俺の向かう先に検討はついたらしい。こんな時間から何を考えているのだと嫌がられたら……不意にそんな不安も浮かんだが、有難い事に彼女は手を振り切る事なくついてきてくれた。
そして部屋に入れば、もう我慢は出来なかった。
唇を乱暴に重ねて、彼女を扉に縫いとめるように閉じ込めた。