その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
70 ロードモンド夫妻【ラッセル視点】
エリンナとの話は、晩餐会が終わったのちに設定された。
殿下が部屋に下がり、一通りの役目が落ち着いた頃、我々殿下の側近達の詰所になっている一室に、ロードモンド卿の側近と名乗る男が迎えに来た。
素直に従って、後をついていくとエリンナとロードモンド卿は中庭の四阿で寛いでいた。
「このような時間に外に呼び出してしまってごめんなさい。どうしてもこの庭の素晴らしさを夫に知って欲しくて」
そう微笑んだ彼女に、そういえば、昔から庭でお姿を見かける事が多かったなと思い、それを口にしようとして飲み込んだ。
彼女の隣で、静かにワイングラスを傾けているロードモンド卿の榛色の瞳が、射るようにこちらを捉えていたからだ。
警戒……もしくは牽制といったところだろうか。
噂に違わず端正……というよりは、鋭利な美しさのある美丈夫だが……
なるほど…
思わず頬が緩みそうになり、なんとか取り繕った。
政略結婚といいながら、エリンナは随分とこの扱い辛いと噂の辺境伯から愛されているらしい。
彼が今、自分をどのような気持ちで見ているのか、手に取るように理解した。
なぜなら、もし自分が彼の立場で、エリンナがティアナだったのなら、自分も同じように相手の男を警戒するだろう。
「こんばんは。ロードモンド卿。私の妻の件でご夫人を煩わせてしまって申し訳ありません」
眉を下げて、詫びながら近づいてゆくと、ワインを置いたロードモンド卿が少しばかり頬をゆるめて
「いえ、こちらこそお疲れのところを妻のわがままで外に連れ出してしまって申し訳ありません」
と微笑む。
「私は付き添いで居るだけですから、どうぞお気になさらず、お話しください」と言って、また深く椅子の背もたれに身体を預けるとワイングラスを傾けはじめた。
「本当にただ私に悪い虫がつかないか見張りに来ただけのようなので、気になさらないで下さいね」
少し拗ねたような、しかしどこか茶目っ気を混ぜたようにエリンナは肩をすくめて微笑んだ。
「いえ、つい今しがた、私自身も同じ立場であるならロードモンド卿と同じ行動に出るだろうと思ったところです」
同じように肩を竦めて少し戯けて返せば、エリンナは「まぁ!」と声を上げてクスクスと笑った。
「話に聞いた通り、ティアナの事が大切でたまらないのですね? そして独占欲も随分と強い」
そう言って、彼女がチラリと自身の隣に座るロードモンド卿に視線を向けて、もう一度こちらに視線を戻す。
「それなら安心です。どうかティアナをお願いします」
強い眼差しで、はっきりと告げられて、俺は首を傾ける。
「その件ですが、いったいどういうことでしょう? 私は今回スペンス家に次男がいたことを初めて知ったくらい、彼への認識が薄いのです。実は少しだけ気になって生い立ちについては調べさせたのですが……」
俺の言葉に、エリンナが瞳を見開く。
「ならば話は早いです。実は学生時代、彼の企みについて耳にしていまして……その時はさほど気にも止めていなかったのですが、ここへ来て彼が戻ってきたと聞いたので、ちょうどティアナに注意するよう手紙を送ろうかと思っていたところでした」
「とにかく、一度座ってください」と促されて、示された椅子に座る。
ワインでも……と言われたが、まだ仕事が残っていると断ると、彼女は姿勢を正して、話を再開する。
「私は、ティアナとは学院で1年生から2年生の2年間、リドックとは最終学年の1年間同じクラスでした」
殿下が部屋に下がり、一通りの役目が落ち着いた頃、我々殿下の側近達の詰所になっている一室に、ロードモンド卿の側近と名乗る男が迎えに来た。
素直に従って、後をついていくとエリンナとロードモンド卿は中庭の四阿で寛いでいた。
「このような時間に外に呼び出してしまってごめんなさい。どうしてもこの庭の素晴らしさを夫に知って欲しくて」
そう微笑んだ彼女に、そういえば、昔から庭でお姿を見かける事が多かったなと思い、それを口にしようとして飲み込んだ。
彼女の隣で、静かにワイングラスを傾けているロードモンド卿の榛色の瞳が、射るようにこちらを捉えていたからだ。
警戒……もしくは牽制といったところだろうか。
噂に違わず端正……というよりは、鋭利な美しさのある美丈夫だが……
なるほど…
思わず頬が緩みそうになり、なんとか取り繕った。
政略結婚といいながら、エリンナは随分とこの扱い辛いと噂の辺境伯から愛されているらしい。
彼が今、自分をどのような気持ちで見ているのか、手に取るように理解した。
なぜなら、もし自分が彼の立場で、エリンナがティアナだったのなら、自分も同じように相手の男を警戒するだろう。
「こんばんは。ロードモンド卿。私の妻の件でご夫人を煩わせてしまって申し訳ありません」
眉を下げて、詫びながら近づいてゆくと、ワインを置いたロードモンド卿が少しばかり頬をゆるめて
「いえ、こちらこそお疲れのところを妻のわがままで外に連れ出してしまって申し訳ありません」
と微笑む。
「私は付き添いで居るだけですから、どうぞお気になさらず、お話しください」と言って、また深く椅子の背もたれに身体を預けるとワイングラスを傾けはじめた。
「本当にただ私に悪い虫がつかないか見張りに来ただけのようなので、気になさらないで下さいね」
少し拗ねたような、しかしどこか茶目っ気を混ぜたようにエリンナは肩をすくめて微笑んだ。
「いえ、つい今しがた、私自身も同じ立場であるならロードモンド卿と同じ行動に出るだろうと思ったところです」
同じように肩を竦めて少し戯けて返せば、エリンナは「まぁ!」と声を上げてクスクスと笑った。
「話に聞いた通り、ティアナの事が大切でたまらないのですね? そして独占欲も随分と強い」
そう言って、彼女がチラリと自身の隣に座るロードモンド卿に視線を向けて、もう一度こちらに視線を戻す。
「それなら安心です。どうかティアナをお願いします」
強い眼差しで、はっきりと告げられて、俺は首を傾ける。
「その件ですが、いったいどういうことでしょう? 私は今回スペンス家に次男がいたことを初めて知ったくらい、彼への認識が薄いのです。実は少しだけ気になって生い立ちについては調べさせたのですが……」
俺の言葉に、エリンナが瞳を見開く。
「ならば話は早いです。実は学生時代、彼の企みについて耳にしていまして……その時はさほど気にも止めていなかったのですが、ここへ来て彼が戻ってきたと聞いたので、ちょうどティアナに注意するよう手紙を送ろうかと思っていたところでした」
「とにかく、一度座ってください」と促されて、示された椅子に座る。
ワインでも……と言われたが、まだ仕事が残っていると断ると、彼女は姿勢を正して、話を再開する。
「私は、ティアナとは学院で1年生から2年生の2年間、リドックとは最終学年の1年間同じクラスでした」