その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
71 思惑【エリンナ視点】
♢
ティアナとエリンナは王立学院の1学年と2学年で同じクラスとなった。
公爵令嬢であるエリンナには当然お付きの令嬢達が側にいたため、最初から親しくしていたかと言うと、そこまでではないらしい。ただ、学年トップの成績を常にキープし、それを鼻にかけず、誰にでも分け隔てなく付き合えるティアナの事は、好ましく思っていた。
会話を交わすようになり、お茶会や誕生日パーティーなどの催しを開く際には、大人数の友人の中に必ずそれぞれを招待するくらいには、親しくするようになる頃、ティアナとグランドリーとの婚約が正式になった。
ティアナがグランドリーを愛していない事は彼女の言葉の端端を聞いていれば分かった。しかし、自分たちのような貴族に生まれた娘はそんな事は当たり前だからそんな事は珍しくもない。現に自分だっていつ好きでもない男との縁談が舞い込んでくるのかわからなかった。
少し年上ではあるものの同世代で、社交界の中では美男と言われているグランドリーが相手であればそれは当たりな方ではないだろうか。
そう思っているうちに最終学年に進級して、初めてティアナとクラスが別れた。
そして代わりに同じクラスになったのはリドックだったのだが、特に何の特徴もなく、ただ優秀な男子生徒だと認識していただけだった。
それが覆されたのは卒業まであと少しという頃。
放課後、確かその日は雨が降っていたため、お付きの者が馬車の到着を確認するためにそばを離れて、エリンナはエントランスホールで1人雨を逃れて待っていた。
そこに男子生徒達がやってきて会話をしているのをたまたま聞いてしまったのだ。
エリンナはエントランスホールに並べられた大きな彫像の影に置かれた長椅子に腰掛けていて、一方の彼らは彫像の反対側の回廊からやってきたらしい。
声に聞き覚えがあると思えばそれはリドックと数名のクラスメイトの男子達だ。
話は、国外に留学するというような趣旨の話で、その中で誰かがリドックの名を呼んで
「リドックみたいな優秀なやつを、国外に流失させる事こそ我が国は止めなければいけないのにな!」
「ははっ、まぁ仕方ないよ。この国にいる以上、俺がどれだけ努力しようと、全て奴らに邪魔されるのが関の山なんだから。」
皮肉気にリドックが笑って応じるのが聞こえて、そう言えば彼は卒業後に外国へ留学する予定になっている事を俄に思い出す。
奴らというのは誰なのだろうか?
なんとなく引っ掛かりを覚えて、そのまま息を潜めていると、彼らの会話は続いていく。
「よくあんな環境で頑張ったよな! これで晴れて自由の身か!?」
「まぁね。とりあえずは色々力をつけて、その時を虎視眈々と狙うだけだよ」
「うわっ! こえぇなぁ、無害に見せておいて本当に底が知れないな~。あの兄さんどうするんだよ?」
「あんな奴なんとでもできるよ。なんせ正室腹で長男っていうだけの馬鹿だからさ! 問題はティアナ嬢だよ。彼女があの男のものになる前になんとか代わってやらないと」
「代わる?」
「婚約者をだよ! あれだけ優秀なんだから、あんなやつの妻として落ちていくのは可哀想だろう? 2人が正式に結婚する前になんとか跡取りを代わってあげないとな!」
「え? それは……お前がティアナ嬢とって事か?」
「そうだよ。彼女の家はティアナ嬢を嫁に差し出す代わりに事業の資金援助を我が家にしてもらっているからな。その約束はそのまま据え置かないと気の毒だろう? それに……あんな馬鹿兄より俺との方がまだ釣り合いが取れていると思わないか?」
「ははっすごい自信だな!」
「まぁな! 兄の手前あまり表では関わらないようにしているけれど、2人の時は割と心を許してしてくれているからね。彼女もそれを望んでる」
ティアナが? リドックと? そんなに親しく話している姿は見た事はないのだが、そうなのか…。
意外に思いながら話を聞いていると、話し声がどんどんと遠ざかっていく。
どうやらエリンナには気づかずに、反対側の回廊へ渡って行ったらしい。
ホッと息を吐いて考え込む。
なんだか少し物騒な事を聞いてしまった。
リドックは、確か侯爵家の次男だ。話の流れから推測するに、兄を失脚させて、跡取りになるつもりなのだと言う。
普段から人当たりが良いイメージの彼にしてみれば意外な事だ。しかもティアナまで奪うつもりだというのだ。
「ティアナは……この事を知っているのかしら?」
もし知らないのであれば、教えてあげるべきなのかもしれないけれど、最後にリドックは「彼女もそれを望んでいる」と言っていた。という事はティアナも知っていて協力するつもりなのだろうか。
下手に盗み聞きしてしまった事を告げて、余計なトラブルに巻き込まれてしまうのも困るし……
色々と悩んだ結果、エリンナは黙っている事に決めた。
しかしどこかで引っ掛かりを覚えていて、何かあればティアナにすぐ忠告しようと思っていたのだが、まさか自分が王都を離れて異国に嫁ぐことになるとは思いもしなかったのだ。
数ヶ月前のグランドリーの暴力沙汰と婚約解消。ティアナの結婚と、スペンス家の次期当主がリドックに変わった事が彼女に伝わったのは最近の事だった。
ティアナとエリンナは王立学院の1学年と2学年で同じクラスとなった。
公爵令嬢であるエリンナには当然お付きの令嬢達が側にいたため、最初から親しくしていたかと言うと、そこまでではないらしい。ただ、学年トップの成績を常にキープし、それを鼻にかけず、誰にでも分け隔てなく付き合えるティアナの事は、好ましく思っていた。
会話を交わすようになり、お茶会や誕生日パーティーなどの催しを開く際には、大人数の友人の中に必ずそれぞれを招待するくらいには、親しくするようになる頃、ティアナとグランドリーとの婚約が正式になった。
ティアナがグランドリーを愛していない事は彼女の言葉の端端を聞いていれば分かった。しかし、自分たちのような貴族に生まれた娘はそんな事は当たり前だからそんな事は珍しくもない。現に自分だっていつ好きでもない男との縁談が舞い込んでくるのかわからなかった。
少し年上ではあるものの同世代で、社交界の中では美男と言われているグランドリーが相手であればそれは当たりな方ではないだろうか。
そう思っているうちに最終学年に進級して、初めてティアナとクラスが別れた。
そして代わりに同じクラスになったのはリドックだったのだが、特に何の特徴もなく、ただ優秀な男子生徒だと認識していただけだった。
それが覆されたのは卒業まであと少しという頃。
放課後、確かその日は雨が降っていたため、お付きの者が馬車の到着を確認するためにそばを離れて、エリンナはエントランスホールで1人雨を逃れて待っていた。
そこに男子生徒達がやってきて会話をしているのをたまたま聞いてしまったのだ。
エリンナはエントランスホールに並べられた大きな彫像の影に置かれた長椅子に腰掛けていて、一方の彼らは彫像の反対側の回廊からやってきたらしい。
声に聞き覚えがあると思えばそれはリドックと数名のクラスメイトの男子達だ。
話は、国外に留学するというような趣旨の話で、その中で誰かがリドックの名を呼んで
「リドックみたいな優秀なやつを、国外に流失させる事こそ我が国は止めなければいけないのにな!」
「ははっ、まぁ仕方ないよ。この国にいる以上、俺がどれだけ努力しようと、全て奴らに邪魔されるのが関の山なんだから。」
皮肉気にリドックが笑って応じるのが聞こえて、そう言えば彼は卒業後に外国へ留学する予定になっている事を俄に思い出す。
奴らというのは誰なのだろうか?
なんとなく引っ掛かりを覚えて、そのまま息を潜めていると、彼らの会話は続いていく。
「よくあんな環境で頑張ったよな! これで晴れて自由の身か!?」
「まぁね。とりあえずは色々力をつけて、その時を虎視眈々と狙うだけだよ」
「うわっ! こえぇなぁ、無害に見せておいて本当に底が知れないな~。あの兄さんどうするんだよ?」
「あんな奴なんとでもできるよ。なんせ正室腹で長男っていうだけの馬鹿だからさ! 問題はティアナ嬢だよ。彼女があの男のものになる前になんとか代わってやらないと」
「代わる?」
「婚約者をだよ! あれだけ優秀なんだから、あんなやつの妻として落ちていくのは可哀想だろう? 2人が正式に結婚する前になんとか跡取りを代わってあげないとな!」
「え? それは……お前がティアナ嬢とって事か?」
「そうだよ。彼女の家はティアナ嬢を嫁に差し出す代わりに事業の資金援助を我が家にしてもらっているからな。その約束はそのまま据え置かないと気の毒だろう? それに……あんな馬鹿兄より俺との方がまだ釣り合いが取れていると思わないか?」
「ははっすごい自信だな!」
「まぁな! 兄の手前あまり表では関わらないようにしているけれど、2人の時は割と心を許してしてくれているからね。彼女もそれを望んでる」
ティアナが? リドックと? そんなに親しく話している姿は見た事はないのだが、そうなのか…。
意外に思いながら話を聞いていると、話し声がどんどんと遠ざかっていく。
どうやらエリンナには気づかずに、反対側の回廊へ渡って行ったらしい。
ホッと息を吐いて考え込む。
なんだか少し物騒な事を聞いてしまった。
リドックは、確か侯爵家の次男だ。話の流れから推測するに、兄を失脚させて、跡取りになるつもりなのだと言う。
普段から人当たりが良いイメージの彼にしてみれば意外な事だ。しかもティアナまで奪うつもりだというのだ。
「ティアナは……この事を知っているのかしら?」
もし知らないのであれば、教えてあげるべきなのかもしれないけれど、最後にリドックは「彼女もそれを望んでいる」と言っていた。という事はティアナも知っていて協力するつもりなのだろうか。
下手に盗み聞きしてしまった事を告げて、余計なトラブルに巻き込まれてしまうのも困るし……
色々と悩んだ結果、エリンナは黙っている事に決めた。
しかしどこかで引っ掛かりを覚えていて、何かあればティアナにすぐ忠告しようと思っていたのだが、まさか自分が王都を離れて異国に嫁ぐことになるとは思いもしなかったのだ。
数ヶ月前のグランドリーの暴力沙汰と婚約解消。ティアナの結婚と、スペンス家の次期当主がリドックに変わった事が彼女に伝わったのは最近の事だった。