その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
84 長い夜②
クロードとの報告がどれほどの時間がかかるのかは、時折彼の仕事を整理している私にもおおよそは検討がついた。
なるべく急いだとしても、それなりの時間がかかる。
きっと彼が部屋に来るのは遅い時間になるだろう。
落胆する気持ちを抑えながら、急ぎではない自分の書類仕事に少し手をつけて、マルガーナに勧められてシャワーを済ませた。
このまま寝室に戻って、待っていたら眠ってしまうかもしれない。
そんな心配をしながら寝室に戻ると、驚いた事にそこには彼の姿があった。
「もう、良かったの⁉︎」
咄嗟に問いかける私に、彼はゆっくり頷く。
「君が随分整理してくれているから、おかげで目を通すだけで済んだよ」
ついでに軽く入浴を済ませる時間もあった。
そう言って、こちらにおいでと手招いた彼は、たしかに着替えまで済んでいた。
招かれるままに彼の隣に向かう。途中私を誘うために差し出された手は先ほどと同様に、随分と冷えていた。
入浴後なのに……もしかして随分と待たせてしまったのだろうか。
そうであるならお茶で温まってもらわねば。そう思って慌ててポットに手を伸ばした時、不意にその手を彼に掴まれて動きを制された。
驚いて彼を見上げると、至近距離で私を見下ろす彼の漆黒の瞳が
悲しげな色でこちらを見下ろしていた。
そして
「さっきまで、リドック・ロドレルと一緒にいたんだ」
真剣な……それでいてどこか辛そうな彼の声に、自然と私は息を飲む。
「君を返してほしいと言われたよ」
意を決したように、言われたその言葉の意味が、わたしにはうまく理解出来なかった。
返す? 私を? 誰に?
唖然として彼を見上げていると、私の視線を受けた彼が自嘲気味に微笑んだ。
「君が過去にリドックと、将来を約束していると説明を受けた……俺たちの契約結婚のことも君から聞いて知っていると言っていた。だから君を彼の元に返すようにと言われたんだ」
慎重に言葉を選びながら、困ったように話す彼の言葉の多くが、私にはまったく意味の分からないものだ。
今夜たしかに私も、彼にリドックのことを話すつもりでいた。でもその内容は、全く違う方向性の話だ。
私とリドックが将来を約束した覚えも、契約結婚の事を私から話した事実もない。たしかに、あの時の私の態度は咄嗟に反応することができず、彼の憶測を裏付けるような反応になってしまったけれど、それでもきちんと否定をしたはずだ。
何から、どのように説明したらいいのだろうか……
すぐに言葉が出なくて、彼を見上げたままでいると、彼は一度口を開きかけて、迷ったように一度噤んで、そして意を決したようにもう一度口を開いた。
「今夜、彼はあの場ですぐに俺を引き下がらせようとしていたのだろうけれど、そんな大切な話を本人のいないところで決めることは、どうしても俺にはできなかった。だから彼に、君の気持ち次第だと言って帰宅してきた。君がどうしたいか……それを聞いて、できるだけの事をしようと思って……」
そこまで言って彼が問うように私を見下ろしてくる。
言葉が出なかった。その変わりにふるふると首を横に振って、とにかく違うと……何もかもが違うのだと彼を見つめた。
「違うわ、そんな事……ありえない」
ようやく出て来た言葉は、思った以上に細くてみっともない泣きそうな声だった。
胸がズキリズキリと押しつぶされそうに痛んで、息をするのが辛い。
どうして、こんな話になってしまっているのか。
なぜそんな事をリドックが言い出したのか。
そして、返せと言われて私の一存で手放せるほど、彼にとって私がその程度だったのだ…と。
失望と絶望が入り混じる。
なるべく急いだとしても、それなりの時間がかかる。
きっと彼が部屋に来るのは遅い時間になるだろう。
落胆する気持ちを抑えながら、急ぎではない自分の書類仕事に少し手をつけて、マルガーナに勧められてシャワーを済ませた。
このまま寝室に戻って、待っていたら眠ってしまうかもしれない。
そんな心配をしながら寝室に戻ると、驚いた事にそこには彼の姿があった。
「もう、良かったの⁉︎」
咄嗟に問いかける私に、彼はゆっくり頷く。
「君が随分整理してくれているから、おかげで目を通すだけで済んだよ」
ついでに軽く入浴を済ませる時間もあった。
そう言って、こちらにおいでと手招いた彼は、たしかに着替えまで済んでいた。
招かれるままに彼の隣に向かう。途中私を誘うために差し出された手は先ほどと同様に、随分と冷えていた。
入浴後なのに……もしかして随分と待たせてしまったのだろうか。
そうであるならお茶で温まってもらわねば。そう思って慌ててポットに手を伸ばした時、不意にその手を彼に掴まれて動きを制された。
驚いて彼を見上げると、至近距離で私を見下ろす彼の漆黒の瞳が
悲しげな色でこちらを見下ろしていた。
そして
「さっきまで、リドック・ロドレルと一緒にいたんだ」
真剣な……それでいてどこか辛そうな彼の声に、自然と私は息を飲む。
「君を返してほしいと言われたよ」
意を決したように、言われたその言葉の意味が、わたしにはうまく理解出来なかった。
返す? 私を? 誰に?
唖然として彼を見上げていると、私の視線を受けた彼が自嘲気味に微笑んだ。
「君が過去にリドックと、将来を約束していると説明を受けた……俺たちの契約結婚のことも君から聞いて知っていると言っていた。だから君を彼の元に返すようにと言われたんだ」
慎重に言葉を選びながら、困ったように話す彼の言葉の多くが、私にはまったく意味の分からないものだ。
今夜たしかに私も、彼にリドックのことを話すつもりでいた。でもその内容は、全く違う方向性の話だ。
私とリドックが将来を約束した覚えも、契約結婚の事を私から話した事実もない。たしかに、あの時の私の態度は咄嗟に反応することができず、彼の憶測を裏付けるような反応になってしまったけれど、それでもきちんと否定をしたはずだ。
何から、どのように説明したらいいのだろうか……
すぐに言葉が出なくて、彼を見上げたままでいると、彼は一度口を開きかけて、迷ったように一度噤んで、そして意を決したようにもう一度口を開いた。
「今夜、彼はあの場ですぐに俺を引き下がらせようとしていたのだろうけれど、そんな大切な話を本人のいないところで決めることは、どうしても俺にはできなかった。だから彼に、君の気持ち次第だと言って帰宅してきた。君がどうしたいか……それを聞いて、できるだけの事をしようと思って……」
そこまで言って彼が問うように私を見下ろしてくる。
言葉が出なかった。その変わりにふるふると首を横に振って、とにかく違うと……何もかもが違うのだと彼を見つめた。
「違うわ、そんな事……ありえない」
ようやく出て来た言葉は、思った以上に細くてみっともない泣きそうな声だった。
胸がズキリズキリと押しつぶされそうに痛んで、息をするのが辛い。
どうして、こんな話になってしまっているのか。
なぜそんな事をリドックが言い出したのか。
そして、返せと言われて私の一存で手放せるほど、彼にとって私がその程度だったのだ…と。
失望と絶望が入り混じる。