あなたに夢中
「たしかに素敵なネックレスでしたね。試しに身に着けてみたらどうですか?」
「無理、無理。地味な私には絶対似合わないから」

華やかな雰囲気が漂うハイブランドショップで、ネックレスを試着する勇気などない。
おいしいパンケーキを食べて、高まっていた気持ちが瞬時に沈んでいくのを実感していると、思いがけない言葉が耳に届いた。

「堀田さんは地味じゃないですよ」
「えっ?」

弾かれるように顔を上げると同時に、穏やかなまなざしを向ける渡辺君と目が合う。

「メガネをコンタクトにするだけで、かなり印象が変わると思いますよ。ちょっと失礼します」

渡辺君はイスから腰を上げて前かがみになり、私に向かって両手を伸ばす。

「えっ? なに? あっ!」

突然の出来事にうろたえる私の前で、彼は薄っすらと笑みを浮かべるとフレームに優しく触れてメガネをはずす。

「透明感がある瞳ですね。それにまつ毛も長い。メガネをかけない方がかわいいですよ」

家族以外の人に、メガネをかけていない顔を見られるのは初めて。
ベースメイクはしていても、素顔をさらけ出したような気がして落ち着かない。

「あっ、すみません。年上の女性(ひと)にかわいいって言って……」
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