あなたに夢中
「次は甘いものじゃなくて、普通の食事に行きましょうね」
隣に並んで腰を屈めた渡辺君が笑みを浮かべながら、私の耳もとでこっそりささやく。
まるで秘密の約束を交わしていると錯覚しそうなシチュエーションに、心臓がドキリと音を立てた。でもこれは、女性の扱いに慣れている彼ならではの社交辞令。
「そうだね」
平静を装って返事をすると、五階フロアに到着したエレベーターから社員が続々と降りてきた。
あと少しで始業開始時刻になる。
こんなところで雑談をしている場合じゃないと気持ちを切り替え、急いでオフィスに向かう。
「なに、あれ」
「誰かと思った」
すでに出社していた同僚の坂本さんと藤井さんが、イメチェンした私に気づいて耳打ちをしている。
渡辺君は似合っていると褒めてくれたけれどそれはお世辞で、メガネをはずした姿も新しいヘアスタイルもどこかおかしいのかもしれないと考えただけで羞恥が込み上げてくる。
嫌でも耳に届く会話が気になって足を止めたそのとき、私を励ます渡辺君の言葉が背後から聞こえてきた。
「大丈夫ですよ。自信持ってください」
どうやら私より遅れてオフィスに入ってきた彼にも、坂本さんと藤井さんの嫌味に気づいたようだ。
「ありがとう」
渡辺君の気遣いに感謝して、お礼を伝える。
人の心の痛みがわからない彼女たちの陰口など気にする必要はない。
そう自分に言い聞かせ、背筋を伸ばして席に着いた。
隣に並んで腰を屈めた渡辺君が笑みを浮かべながら、私の耳もとでこっそりささやく。
まるで秘密の約束を交わしていると錯覚しそうなシチュエーションに、心臓がドキリと音を立てた。でもこれは、女性の扱いに慣れている彼ならではの社交辞令。
「そうだね」
平静を装って返事をすると、五階フロアに到着したエレベーターから社員が続々と降りてきた。
あと少しで始業開始時刻になる。
こんなところで雑談をしている場合じゃないと気持ちを切り替え、急いでオフィスに向かう。
「なに、あれ」
「誰かと思った」
すでに出社していた同僚の坂本さんと藤井さんが、イメチェンした私に気づいて耳打ちをしている。
渡辺君は似合っていると褒めてくれたけれどそれはお世辞で、メガネをはずした姿も新しいヘアスタイルもどこかおかしいのかもしれないと考えただけで羞恥が込み上げてくる。
嫌でも耳に届く会話が気になって足を止めたそのとき、私を励ます渡辺君の言葉が背後から聞こえてきた。
「大丈夫ですよ。自信持ってください」
どうやら私より遅れてオフィスに入ってきた彼にも、坂本さんと藤井さんの嫌味に気づいたようだ。
「ありがとう」
渡辺君の気遣いに感謝して、お礼を伝える。
人の心の痛みがわからない彼女たちの陰口など気にする必要はない。
そう自分に言い聞かせ、背筋を伸ばして席に着いた。