あなたに夢中
「お待たせいたしました」

シュンと肩を落としていると料理が運ばれてくる。

「冷めないうちに食べましょうか」
「うん」

渡辺君がオーダーしてくれたサラダやピザ、トマト煮込みなどの料理はどれもおいしいけれど思うように食が進まない。

「どうかしましたか?」

心から食事を楽しめないのは、渡辺君に対してうしろめたさを感じているから。
私を心配してくれる彼に、すべてを話す決意を固めて背筋を伸ばす。

「私、自分で言うのもおかしいのかもしれないけど、真面目な性格なの。校則が厳しい私立の女子校に通っていたんだけど、髪型もスカートの丈も靴下の色もきちんと校則を守って、成績も学年で一二を争う模範的な生徒だった。でも一部の生徒にはそれが気に入らなかったみたいで、いい子ぶっているとか先生に媚びを売っているとか陰口を叩かれて……。それ以来、悪口を聞きたくなくて同級生とは距離を置くようにしたの。それは入社してからも同じで、きっと坂本さんと藤井さんはよそよそしい態度を取る私が気に入らなかったんだと思う」

渡辺君が知らない過去の出来事を一気に語る。
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