あなたに夢中
今まで誰にも言えなかった話をしたのは、親身になってくれた彼に事実を打ち明けるべきだと思ったからだ。

「だからといって、嫌がらせをしていい理由にはなりませんよ」
「うん。だから今度からは無理な残業はきちんと断るようにがんばる」
「そうですね。俺も陰ながら応援します」
「ありがとう。ごめんね。変な話をしちゃって」
「いいえ。貴重な話を聞きてよかったし、それに俺は真面目な人って好きですよ?」

渡辺君はピザを食べながらサラリと言う。
彼の『好き』は恋愛対象者に向けての言葉ではなく、人として『好き』という意味だとわかっているのに、胸が高鳴るのを止められない。
この思いはいったいなんだろう。
推しのNAOKIに対してときめきを感じるのと、似ているようで少し違う感情に戸惑うばかり。
混乱した気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸した私を見て、渡辺君がクスッと笑う。

「酔いましたか?」
「ううん。大丈夫」

飲み会に参加したことがないため、自分がどれだけお酒を飲めるのかよくわからないけれど、今のところ火照りは感じないし頭も痛くない。

信頼できる人と他愛もない会話をして、おいしいお酒と料理を味わうひとときがこんなに楽しいものだと初めて知った。
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