あなたに夢中
勘違いされたままでは落ち着かないし、渡辺君にも迷惑をかけてしまうかもしれない。
坂本さんの誤解を解くために、食事に行くことになった経緯を説明した方がいいのではないかと考えていると、彼女の口から耳を疑うような言葉が飛び出る。

「あなたも玉の輿狙い?」
「玉の輿?」
「とぼけないで。渡辺君が社長の息子だって知っていて迫ったんでしょ?」

坂本さんの迫力のある声が通路に響く。
彼が社長の息子だという話を聞くのは初めてだし、玉の輿狙いで迫ったなんて言いがかりもいいところだ。

「わ、私は……」
「とにかく、渡辺君とあなたは不釣り合いだから」

坂本さんは反論しようとした私の言葉を遮って吐き捨てるように言うと、この場から立ち去る。
ただの同僚である私に対して気さくに接してくれる渡辺君が御曹司だと、にわかには信じがたい。でも、真剣な表情を浮かべていた坂本さんが嘘をついているようにも見えなかった。
事実を確かめたくても、彼が本当に社長の息子なのか聞ける人などいない。
こうなったら、仕事が終わってから本人に直接聞くしかないと覚悟を決めてオフィスに戻った。
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