あなたに夢中
「異動の件は俺と堀田さんだけの秘密ですからね」
「う、うん。わかった」

コクリと頷く私の前で、渡辺君は口に人差し指をあてる。
内緒のポーズでふたりだけの秘密と言われると、なんだか照れを感じてしまう。
渡辺君の顔を真っ直ぐ見られずに視線を逸らすと、入店待ちの列が進んで順番が回ってきた。
観葉植物が置かれたナチュラルテイストの店内は、フルーツの甘い香りに包まれている。
案内された席に着くとメニューを見つめて、私はこれでもかというほどイチゴが盛りつけられたパフェを、渡辺君は桃をまるごと一個使用した贅沢なパフェをオーダーする。
ほどなくして運ばれてきたパフェは、メニューに載っていた写真よりもはるかに大きくて迫力がある。

「わぁ、すごい!」

興奮のあまり大きな声をあげた私を見て、渡辺君はクスクスと笑う。

「堀田さんって子供っぽいところがありますよね」
「一緒にいて恥ずかしいと思った?」
「まさか。かわいいって思いましたよ」

彼の口から思いがけず出た褒め言葉は、恋愛初心者の私には刺激が強すぎる。
お世辞だと頭では理解しているのに、胸の高鳴りは止まらない。
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